パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

『50にして煙を知る』第18回「失われた」モールを求めて

プルーストの大作並みの大げさなタイトルで始まる話は、至って単純で、ドイツ製のモール「ホワイト エレファント」をどうにかしてまとめ買いしたいのに、手に入らないもどかしさをお伝えしたいだけだ。

吸い方がへたくそな私は、パイプの煙道を詰まらせないよう、しょっちゅうモールを使う。癖になっているといっていい。これがなかなか難儀で、不器用な私は途中で詰まったり、折れ曲がったりで、なかなかうまく一気にでボウルまで到達してくれない。

「これはいい」と気に入ったモールに初めて出合ったのは、去年の全日本パイプ選手権の際の景品だ。

いままで見たこともないような太さと長さで、イガイガがついたモールが入っていた。しかも通常の50本、100本入りではなく80本入り。それが「ホワイト エレファント」であった。こいつは素晴らしい。

吸い口の途中でぐにゃっと曲がったりして、私をイライラさせない。

グイっと一押しで、一気にボールまで到達し、あとはグリグリとまわしていけば、ヤニがきれいに取れる、まことに理想的なモールだった。

当然、これしか使わないから、あっと言う間になくなってしまった。

親切な仲間が大会でもらったホワイト エレファントをくれたが、これとてすぐなくなる。

「大会で配られたんだから、どこでも売っているのだろう」と、いつも行く店、何件かで尋ねたのだが、「うちは扱っていません」「聞いたことありませんな」とすげない答えばかり。

それならば大先輩、JPSC代表世話人、梶浦恭生さんに聞けばわかるだろうとメールで問い合わせると、「お尋ねのモールの件、よく知りません」である。

「ええ?梶浦さんもご存じないのですか」である。

そうなると、どうしても知りたくなるのが人情ではないか。仲間の一人が、このモールを仕入れた「カプノス六本木たばこセンター」店長・高橋秀男氏から正体を聞きだしてくれた。

以下、高橋氏の説明。

「お問い合わせのイガイガの付いたホワイト エレファントのモールですが、昨年のパイプ大会の時、寄贈して頂いたモールで現在、日本では流通しておりません。

輸入業者にも在庫は無く、この先輸入は、しないとの事です」。

要するに「日本のパイプ店の店頭では売ってないから、買えない。将来も輸入する予定もない」ということが分かった。

パイプ好きの人は吸い方がうまいから、あんまりモールを使用しない。「そんなもの、どうでもいいじゃないか」という感じであろう。

ところが、私には必須用品だから、簡単にあきらめるわけにはいかない。どうしても手に入れたいが、ドイツまで買いには行けない。

アナログ人間なので、ネットは苦手だが、ここはネット販売に頼るしかない。

「ひとつ頼むよ」とITが得意なパイプ仲間に手伝ってもらい、検索スタート。

「ホワイト エレファント」を画像検索で探したところ、あった、あった。

「ジャーマン パイプショップ」のホームページが出てきた。

欲しかった「ホワイト エレファント」のモールは「TOP HIT」とあるから、よく売れているのだろうか。

大会でもらった80本のビニール袋入りではなく、透明の筒に200本入っており、3.95ユーロというから約650円。

「安いじゃないか」、10組注文すれば6500円。「2000本あればかなりもつだろう。これでいい」と仲間とともに安堵感と達成感がはやくも漂う。

ところが、船便代がバカにならない。こちらが28ユーロで4,600円。合わせて11000円。なるほど個人輸入は大変だが、国内で売ってないんだから、仕方がない。

メールで申し込んだら、「Order successful」と返信が来た。

いやはや、苦手なネット検索購買だが、仲間の助けでなんとか注文はできた。ところで船便でドイツからだと、どのくらいかかるんだろうね。

30年以上前の高校時代、イギリスにLPレコードを注文したことがあったが、何ヶ月も待った記憶がある。それ以来の海外オーダーだ。

「待てば海路の日和あり」ならぬ「海路の便り」を待つこととした。後日談はそのうちに。

千葉科学大薬学部教授 小枝義人