パイプの愉しみ方
パイプ煙草で至福の一服
今年の2月3日から禁煙したのだが、禁断症状が抜けた後も何か釈然としなかった。
「自分はとてつもない大切なものを自ら放棄してしまったのではないか」という思いが募り、募り募ってはたと気付いた。パイプ煙草である。
小生は22歳から数年間、パイプ煙草を愛飲していた。パイプ煙草は紙巻煙草と違って一服するまでの準備に時間がかかるし、喫煙時間も長いし、その間は喫煙に集中するので仕事をしながら喫煙するというのはちょっと難しい。瞑想するか音楽に耳を傾けるしかないのだ。
で、サラリーマンになってからは専ら紙巻煙草だったが、今はリタイアしたからパイプ煙草の環境は完璧に整ったのである。禁煙から4ヵ月後の6月3日、納戸をごそごそと探したら懐かしいパイプが2本発掘できた。あと2本あるはずだが行方不明である。
隣町の煙草屋へ行き「ハーフ&ハーフ」を求め、さっそく三十余年ぶりにプカリプカリ。まったく旨い。煙草本来の香りで、紙巻煙草とは「同じ煙草か」と思うほどに味が違う。紙巻煙草特有の紙が焼けてつんとする嫌な臭いもない。
今は煙草屋に発注して「スイートダブリン」を愛飲している。デンマーク製で高級バージニア葉とマイルドなブラック・キャベンディッシュ葉をミックスし、アイリッシュウイスキーで香りをつけたものだ。
ゆったりとした気分で煙草本来の旨さを堪能していると俗事を忘れる。まさに至福の一服だ。カミサン曰く「パイプはパパの趣味ね」。そうなのだ、紙巻煙草は今や悪習に貶められてしまったが、パイプ煙草は上品な趣味なのである(と思いたい)。
世間が忙しくなったためだろう、ゆったり派のパイプ党は昔に比べると随分減ったとは煙草屋の話である。本来パイプは風の影響を避けるために屋内で吸うものだから屋外でパイプ党を見かけることはまずない。今の若い人々はパイプ煙草の存在さえ知らないのではないか。
パイプ煙草の歴史は古く、マヤ文明の7世紀ごろのレリーフに喫煙する神様が描かれていると言うから、たぶん紀元前からあったのではないか。ヨーロッパ世界に煙草を紹介したのはコロンブスである。
シャーロック・ホームズはパイプ煙草をくゆらして難事件を解決した。チャーチルとマッカーサーはパイプ煙草を愛飲して戦争に勝ち、元祖禁煙ナチのヒトラーは負けた。
パイプ煙草にはあまり習慣性がないようだ。禁断症状を覚えない。紙巻煙草を控えてパイプ煙草を始めれば悠久の歴史を思い、瞑想する機会も得られる。第一に煙草代の節約にもなり、小生の場合は1ヶ月の煙草代は1万円から4500円へと半減した。
ギネスの記録によると、たった3グラム(紙巻煙草で6本分)のパイプ煙草で3時間も吸う人もいるというから驚きだ。パイプ煙草はお金のかからない高尚な趣味だと自賛している。もっともパイプ収集に凝るとお金はいくらあっても足りないけれど・・・