パイプの愉しみ方
『50にして煙を知る』第21回
「葉巻党」に想う年末
職業柄、よく古本屋にフラフラと立ち寄る。
先日も八重洲地下街の馴染みの店を覗いていたら、「たばこ」と言うタイトルが目に飛び込んできた。
買ってそのまま研究室に放り込んでおいたが、しばらくして開けてみたら発行は昭和38年、野田卯一の著作だった。彼はあの岐阜の野田聖子代議士の祖父で大蔵事務次官、衆参両院議員、建設相などを歴任した人物である。
「はぁん、なんだこりゃ」とページを繰って納得、彼は大蔵省退職後、専売公社副総裁になっているのだ。
天下りであるが、たばこの著作をものにするのだから、これだけでも偉い。
驚いたのは序文に「大磯 吉田茂」なる筆文字があったことだ。
もちろん戦後の宰相、あの吉田だ。
これがなんとも味わい深い文章で、これだけでも本書を購入した意義があったと言えよう。皆さんに全文を紹介する。
ね、小気味いいでしょう。パイプクラブの会員に訊ねたら、吉田が愛用したコロナ・コロナとは当時、キューバで生産されていた有名な葉巻だそうだ。
今は生産していた会社自体が存在しないから、われわれは吸うことはできない。
マッカーサーはレイバンのサングラスとコーンパイプ姿で昭和20年9月、厚木基地に降り立ったことで有名だ。ある時、吉田に葉巻をプレゼントしたら、「これはフィリピン産でしょう。私はキューバ産しか吸わない」と言ったエピソードも残っているが、この文を読む限り、あの頃はフィリピン産でも手に入れば、吸っていたんじゃないかなあ。
戦前、東条英機でも、昭和天皇の信頼の厚かった吉田の岳父、牧野伸顕には葉巻を贈呈していたこともわかる。
その東条は英米派外交官、吉田を嫌っていたことでも有名だが、そこから来た葉巻をかすめて吸っていたんだから、愉快だ。
亡くなる4年前に「いま葉巻党を養成するため党員募集しています」なんて、英国仕込みのユーモアだなあ。
吉田の孫が、先の総選挙で敗北した麻生太郎前首相。
彼がバーに通い、葉巻を愛用しているのはおじいちゃんの見よう見まねからだったのだろう。
55年前の今頃、吉田を倒して政権についたのが鳩山一郎。その孫が今の鳩山由紀夫首相だ。
今夏、劇的な政権交代はしたものの、孫同士の闘いは、情熱、スケールとなるとだいぶ落ちる。年末の日本列島で、この名文を眺めつつ、ふと思ったのは、「聖子代議士、麻生前首相はこれを読んだことがあるのだろうか」と。
逆境にあってもなお、これぐらいのユーモアが出なければ大物政治家とはいえない。しっかりしろ、民主党、そして自民党。