パイプの愉しみ方
パイプ随想 ジャン・ギャバン
昨年の暮れに東京・赤坂のホテル・ニューオータニの中にあるニューオータニ美術館をぶらりと訪れた。
グラフィック・デザイナーとして一世を風靡した野口久光の生誕百周年を記念したグラフィック展を覗くためだ。
http://www.newotani.co.jp/group/museum/exhibition/200911_noguchi/index.html
その会場で一枚の映画ポスターに目が留まった。
題名は「メグレ警視、殺人鬼に罠をかけろ」(1958年制作)。 往年のフランスの名優ジャン・ギャバンがビリアードのパイプを銜えているポスターである。
ジャン・ギャバンは根っからのパイプスモーカーだった。
映画の冒頭、パリの地図にストレートシェイプのパイプの影が重なる背景画像がずっと続く。題名から出演者、監督ジャン・ドラノア、原作者ジョルジュ・シムノンの名前まで、すべて紹介し終わるまで同じ背景画像だ。
映画の中で、主役のメグレ警視はいつもパイプを手放さない。それも私の見る限りでは5本出てくるが、すべて違うパイプだ。
メグレ警視を演じるジャン・ギャバンはパイプスモーカーであることがはっきり判る。
ポウチからたばこを詰める自然なしぐさや、パイプを吹かす様子が本物だということはパイプスモーカーには判る。
メグレ警視の自宅には立派なパイプのキャビネットがあり、パイプ好きの私にとっては、見ごたえがあった映画だった。
その中で気になる一本のパイプがある。映画ポスターの中で銜えているパイプだが、これはファクトリーパイプではない。
吸い口の形状からすると、ハンドメイドのビリアード。この映画が作られた時代に、ここまで太くて、パラレルな型口(モールドで作られたもの)は無かったはずだ。
主演が決まったジャン・ギャバンが、映画用の小道具の一つとしてパイプメーカーに特注して作らせたのではないか、と推理した。
2月にシャコムのイヴ社長に会うので聞いてみたいと思っている。
映画の粗筋は、ここで公開するのは野暮だと思うのでしない。