パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

パイプの煙 番外編  「台湾海峡、すでに夏景色」

千葉科学大薬学部教授 小枝義人

恒例となった台湾・高雄への旅である。同行者もおなじみの拓殖大学海外事情研究所の丹羽文生助教。

今回は3月12日から10日間の長期遠征で、研究発表が3回、大学での飛び込み講演が2回、さらに毎日、研究機関、行政機関、政党支部への表敬訪問も数多く、楽しくも忙しい日程であった。

昨年から煙害防制新法が施行された台湾であり、ホテルや公共施設では禁煙が徹底されている。

それでも久々に訪れた中山大学脇のグアテマラ・カフェではいまだ堂々と灰皿が置いてあり、スタッフに聞いたら、「いくらでもスモーキングが可能である」と頼もしい返事が返ってきた。

大きなカップになみなみと注がれた「エルサル・バドル」を飲みながら眺める台湾海峡は、すでに夏景色であり、太陽が反射して、きらきら光る水面は、心をうきうきさせてくれる。気温28度。なんせ、今年の日本の冬は寒かった。

ところが、この近辺は6月から国立公園に指定される。それに伴い、立ち並ぶ土産物店やカフェは景観保護のため撤去されることになるそうだ。煙をくゆらす場所はますます狭まりそうである。

近くのイギリス領事館跡を改築した博物館は、ご多聞にもれず大陸から団体でやってくる津波のような中国人に占拠されており、今回はパスした。

そのかわりといっては何だが、カフェの近所で、地元の人々が思い思いに集っている場所を発見した。

夕日が見える場所だから、ちょっぴり感傷的にもなるし、カップルも多い。

カメラのシャッターを切ってあげた縁で、上品な老婦人に話しかけたら、なんとも美しい日本語で「こんにちわ。わたしたちは日本語世代ですから」と返事が戻ってきたのには感激した。

「あとで写真を送ります」と約束したが、これもいまやネットで送るから、53歳の息子さんにメールアドレスを教えてもらって、簡単にやりとりができるのであるから、時代も変わったものである。

 

台湾南部はとにかく食べ物が豊富だ。歓迎のスタイルは、死ぬほど多量のご馳走がでてくることだ。

現地の人に聞くと、「きれいに食べてしまうと、これはまだおなかに余裕があり、歓待したことにならない」

そこで、「もうこれ以上食べられません」と残せば、接待するほうとすれば、満足を与えたことになり、安心するのだそうだ。

もちろん、まともにつきあっていたら、胃がもたない。私の予防法はホテルでの朝食はほとんど食べないことだ。クラッカーにチーズ一切れ。オレンジジュースで止めておく。

午前中の行事が済めば、いきなりてんこ盛りランチが待っている。

夕飯はさらにすごいボリュームだ。海の幸、山の幸なんでもござれ。

ある夜、連れて行かれた店は日式「」しゃぶしゃぶという意味なのだが、ごった煮という感じだ。

肉、野菜、魚、果物、アイスクリーム、なんでもそろっている。ビュッフェスタイルの食べ放題でなべに入れて、じゃんじゃん煮込む。時間無制限。

最後は海産物、野菜で出汁をとる海鮮おじやで締めくくる。それでいて一人300元、日本円で1000円だ。台北ではそうもいかない。南台湾ならではの風景だ。

えびを20匹も食べただろうか。翌日、目覚めたら、自分の姿が海老に変身していたらどうしようかと心配してしまった。

ついでに驚いたのが、スタバのコーヒーカップの大きさだ。顔が入ってしまうかと思うほど、いや、すごい。

なんだか、ぜんぜん煙と関係なく延々と食べ物の話になってしまったが、それほど食物豊かな台湾南部だ。

必然的に人々は穏やか、タイトな台北と比べれば、ゆるい雰囲気ということになるか。

50代後半の私も、もうそろそろタイトでなく、ゆるい人生に転換する時期だろう。高雄に来るといつもそう思うが、なぜか現地では行事がタイトに詰まっている。
交わした名刺の数と、こなした講演、会合の数知れず。
どうなっているのかしらん。