パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

『50にして煙を知る』
 第22回煙が目にしみる、、、、 関東選手権 参戦記

千葉科学大薬学部教授 小枝義人

「審判員やってもらうから、出場たのむね」と日本パイプスモーカーズクラブ(JPSC)幹部から言われたのは、たしか3月だったか。

審判と競技を同一人物にさせるあたりは、良識ある紳士、淑女の集うパイプスモーカー大会では矛盾しないらしい。

日本語ではこういうのを「一石二鳥」とも表現する。

5月22日、東京・渋谷にある日本たばこ(JT)東京支店地下1階にある食堂で催された第14回関東選手権大会。

地方大会参加は個人的には昨年夏、仙台の東北大会以来、二度目。さすがに首都圏での開催となると、100名以上のエントリーがあり、当日の参加者は99名。

全国大会と見まがうばかりの規模だが、会場はなぜかJT支店の食堂。

ショぼいと思うなかれ、である。

「会場を借りようにも、禁煙の風潮の中、貸してくれるホテル、会議場がありませんので」と大会実行委員長が、開会あいさつで嘆くほど、最近の煙に対する風当たりはきつい。

紙巻に比べ、パイプや葉巻の香りは素晴らしいが、JTのタバコ売り上げに占めるパイプタバコの割合は0コンマ2桁ぐらいだろうか、ほとんどゼロに等しいから、まあこの日集まった参加者は相当なマニアばかりといえよう。

さて、会場だが、おそらく60年代、JTがまだ専売公社時代に建てたビルだろうから天井が低い。

広い場所だが、100人が一斉にパイプに着火し、煙を出すのだから、普段は味わえない迫力のスモークシーンとなる。

いやあ、これは思わず「煙が目にしみるぜ」と口に出てしまうほど、なつかしい雰囲気になりそうだ。

食堂の机をくっつけ、いすを並べ、1グループ8人に分ける。そこに1人ずつわがクラブのメンバーを配置し、参加者兼審判員とする。

私のテーブルは顔を見ただけでこの道、ウン十年のベテラン揃いだ。煙が消えた参加者は挙手し、自己申告する。その人のタイムを記録し、本人に確認サインさせ、審判デスクに渡すのが審判員の役目だ。

その分、吸うほうだけには専念はできないが、「かえって肩の力が抜けて、いいタイムが出ることもある」と聞いた。

その通りで、私の記録は1時間には届かなかったが56分台で、これまでの公式大会の自己記録を更新した。

それでも強豪ぞろいのわがグループは、私がギブアップしてもまだ5人も残っていた。おかげで、それから先は審判に専念できたが、最後の1人は浦和パイプクラブの長老、大久保美房さん。

煙が消えて退室した参加者は、隣の控え部屋でうまそうにビールを飲んで歓談しているが、どんどん退室していくから、そちらの声のほうが段々大きくなる。

「おい、1人はさみしいから、審判として最後まで付き合ってくれよな」と大久保さんは悠然とふかし続け、準優勝。審判冥利に尽きるというべきか、、

驚いたのは団体の部で、ロングスモークの練習はまったくしない集団、わがJPSCが1位の栄冠に輝くというハプニングがおまけについた。

恒例の表彰会。参加者全員に賞品を渡したあと、個人、団体、レディース一位には日本パイプ連盟とわがJPSCの両方のロゴエンブレムが入った優勝盾が贈られた。

これはなかなか立派なものだ。

最後にあいさつに立ったのはJT東京支店長中野浩次氏。

年齢はそろそろ50に手が届くあたりか。長身のなかなかの色男であるが、あいさつもふるっていた。

「こんな、しょうもない場所ですいませんが、いつでも使ってください。色々言われていますが、喫煙のような、こういう文化って大切だなあと思います。

私はこれまでもっぱらシガレットで、パイプはやっていませんでした。それは若いうちは生意気に見えて似合わないと思っていたからです。

今日も、パイプスモーカーはみんな気難しい人ばっかと思いきや、実に愉快な方々ばかりで」と言ったところで笑いと拍手。

「もうそろそろパイプをやってもいい歳かなと。楽しんでこその人生ですから」と、型どおりでないあいさつで、締めくくり参加者を大いに沸かせた。

11月には茨城県・土浦にあるマロウド筑波ホテルで全国大会が開かれる。地方はまだまだ鷹揚で、会場を貸してくれるホテルもまだあるとの事だが、諸々の条件にかなうホテル探しには主催クラブの並々ならぬ苦労があると聞く。

確かに文化は守っていくべきものだ。

「それには時流におもねることなく、不断の努力も要る」なんて、構えて吸っていたら、とても続かないですよね、皆さん。

ぜんぜん練習しないJPSCが団体優勝したんだから、模範を示したのかな。