パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

天地分明

丹波 作造

「われわれはーっ、スモークマン精神に則り、喫煙時間だけでなく喫煙文化の持続的発展を目指し、正々堂々と吸ったり吹いたりすることを誓いまーす!」

前回のチャンピオンだかなんだか知らないが、宣誓はひとつで充分、二つも安っぽく誓うな。それと、大事なタンピングするを入れるのを忘れているぞなどとと呟きつつ、第14回関東スモーキング選手権大会の支給タンパーを点検する。素人は騙せても、玄人の目には直径が0.5ミリほど過大なのが厳然と見て取れる。ここで大会不成立を主張するべきかどうか迷って心臓の鼓動が早まったところに、「パイプに穴が開いている!」との抗議の声が会場に谺した。穴が開いていなければ、パイプではないだろう。あまりの根源的な問い掛けに呆然としていると、どうもボウルに大きな凹みがあるという意味らしい。それまでの明鏡止水の境地は何処へやら、疾風怒涛の心境でタンパーの天地も見別けないうちに不用意に最初のタンピングを行ってしまった。

タンパーは通常木製である。木材はその生育時の上下を持って天地とする。地中の水分を枝先に運ぶ維管束の機能から、根に近い面をタンピングに用いることで、パイプ内の水分を効果的に取り去ることができると考えられる。また、燃焼が行き過ぎている場合は、逆に枝先側で湿気を除去せずに火勢の進行を抑えるのである。かの法隆寺の塔頭とて、柱材の天地を間違えていたら、湿気とそれに伴う木材の狂いで今日の姿は留めていないかもしれない。

機械で加工されたタンパーは、その両面の微妙な手触りを比較して天地を判断する他ない。片面に灰をつけてしまっては已んぬる哉、木目に枝分かれの兆しでもない限り判断は困難である。こうして、秘技タンパー返しを封じられ、虚しく吹き吸い押しを繰り返す。会場に麗々しく設置された経時データスクリーンの数値が妙に気になる。本当に合っているのか自分の時計で確かめているうちに、煙草ははや燃え尽きて来た。

今回、タンピング技術と喫煙技術の両立がかくも困難であると思い知った。近い将来のタンピング選手権開催を切に願うものである。芸術点はタンパー自身と手捌きの優美さを、技術点は煙草表面から底までの充填率分布の適正さを競う。そして、総合優勝は一番喫味の良かった作品に与えることにして、自分も非力ながら審判に立候補したいと思うのである。

大会使用タンパーと、生育方向が一目瞭然の筆者作タンパー

[編集部注: タンパーの太さは15mmですが5%の誤差が認められており大会は成立しています。また、スモーキング技術に関しては筆者の個人的見解に過ぎません。]