パイプの愉しみ方
50にして煙を知る 第25回
「還暦の快挙を目の当たり。全日本パイプスモーキング選手権 土浦大会参戦記」
11月14日の日曜日、うす曇りの中、常磐線で土浦についたのは午前10時すぎ。上野から北に向かうと西日本出身の私は、なぜか心細く、やや憂鬱になるのはいつものこと。
もちろん用事があるから行くのだ。今回は、ここで第37回全日本パイプスモーキング大会が開催されるからだ。
駅から歩いて10分ほどか。喫煙大会に会場を貸してくれる今どき奇特なホテルである。ありがたい。
今年も全国から200名近い参加があったのだから、すごい。沖縄からも参加者が。「好きやねん、パイプが」といった人たちだ。
岡山PCやジョンシルバーPCのような熱心なロングスモーキングの練習をまったくしないが、会員数だけなら負けないわがJPSCの面々。
私のテーブルも全部JPSCのメンバーだから、場所を替えた例会の雰囲気の延長だ。
土浦市長の中川さんも愛煙家で「市のタバコ税収は5億で、貴重な財源だ」とあいさつし、この日はパイプ喫煙にも挑戦する意気やよし。
久しぶりにお会いする顔もなつかしい。昨年の倉敷大会以来か、岡山パイプクラブの香山雅美さんは、例によって和服姿に、くわえパイプで話しかけてくる。
「これつくったんですわ。丹波作造にはバカにされましたが」と私に進呈してくれたのは、金属製のボウル内の灰かき出し棒。「ヒャー、珍しい」とありがたく頂戴した。耳かきみたいだが、威力を発揮しそうだ。
さて、本番。「40分以上」が自ら課した最低ラインであるが、今回は調子がいい。 難なくクリアーしたのは、同じテーブルのJPSCレディースの面々の迫力に引っ張られたからだ。
お酒大好き人間の1人は、昨夜は断酒でこの日に臨んだということで、鬼気迫る表情と熱気が、こちらにもじわりと伝わってきた。
うわ、初めて60分を超えた。72分17秒と自己ベストを20分ほど更新で、大満足したが、サプライズはこれからだった。
私が入会を勧め、昨年の倉敷大会ポスターのモデルになった大熊治夫氏だ。離れたテーブルで、じっと冬眠しているがごとき表情で、紫煙をくゆらせているではないか。
全国の強豪の退席が続く中、意に介せずマイペースで煙を漂わせる。タイムは89分53秒!なんとJPSCの常連、小泉、森谷氏を上回るスーパータイムである。
団体賞はわがJPSC、この大熊氏をトップにこの上位3氏のタイムでジョンシルバー、すみだ川クラブに次いで堂々の第3位。珍しく首都圏勢の独占だ。
やりましたね 大熊さん。還暦の快挙である。
表彰では「8ヶ国語を話せる方」と紹介されたが、副賞の水パイプは彼が以前から欲しがっていたものだった。美学家の美的感覚は常人とは違うらしい。
昨年の倉敷大会では、着火ミスで早々と退席したが、実はあのときから野心満々だったのか?
「いやあ、本番前に、連盟が主催した『パイプ入門』で、タンパーの使い方を教わったから、効いたのかな」と飄々とした答えも彼らしい。
「パイプ入門」は、本番のあとも、会場脇のサロンで催され、ジョンシルバーパイプクラブの佐久間さんと浦和パイプクラブの古参大久保さんのご好意で、私も受講した。
新品のパイプや葉を、参加者に惜しげもなく進呈してくれて、それに火をつけさせ、実践的に教えてくれるという素晴らしいサービスだ。
ボウルへの葉の詰め方は「ゆるすぎても固すぎてもいけない。敢えて言えば、豆腐のような感じに」―うーん、そうかあ。
「タンパーで、火種に葉を包み込むように集めて燃やす」―、私の隣で相手をしてくれたジョンシルバーPCの美女が火種を見せてくれて、手本を示してくれた。まあそうですね、なかなかうまくいきませんが、、、
大熊さんの飛躍はベテランに言わせれば、「こういう大化けがあるから、パイプは面白くて止められない」そうだ。
大会のアトラクション、食事会も終われば、もう夕方5時、秋の日はつるべ落とし。猛暑の記憶ははるか彼方―今年もあと1ヶ月か。