パイプの扱い方
木内式ロングスモーキング THE LONG SMOKING SEIICHI KINOUCHI-STYLE
目次
1:葉の詰め方
2:着火
3:序盤
4:中盤
5:終盤
6:最終盤
7:木内成一氏略歴と主な成績
8:新聞記事(徳島新聞2010年1月)
1:葉の詰め方
試合が開始して葉をボウルに詰める。ゲームの最初に与えられる5分間で行う作業だ。葉をほぐし、破片を
大中小に分ける。最初に詰めるのは「大」である。指を使って堅く詰める。これは、葉がボウルの底にある煙
道が詰まる事態を防ぐのが最大の目的だ。堅さは吸って「少し重い」と感じる程度にしておく。
次に「中」の葉を入れ、さらに「小」「粉状になった葉」と順に入れる。単に入れるだけでよい。ボウルの容量
に収まらない場合は軽く押さえる。一般的には、葉詰めは3回に分けて、底の3分の1は「子供の力で押さ
え」、次の3分の1は「女性の力で押さえ」、最後の3分の1は「男の力で押さえる」といわれるが、私の場合
は、上にゆくほど柔らかくなるようにしている。それらの作業が終われば、ここでも吸えるかどうかを確認し、準
備を完了させる。
最初に「大」の葉を詰めるのには理由がある。葉が小さいと煙道は詰まりやす
い。序盤、中盤、終盤、最終盤と吸い進めていくに従って、葉はタンパーワークのために全体に詰まってくる。このため、詰まりやすい小さい葉をボウル上部で先に燃やし、葉にすき間が生じやすい大きな葉を底部に配置しておいた方が有利となる。
煙道に葉が詰まりやすくなる
・底の詰め方が、柔らかい場合
スモーキング時間が短くなる
2:着火ボウルの葉に完全に着火させる
1回目柔らかい上部の葉に十分に火を回わして、表層に近い部分を黒く炭化 させる。そのためには、惜しげなく葉を燃やしておく必要があり、マッチ1本を最後の方まで使うことになる。それには、ボウル全体の温度を上げる意味もある。ボウルの温度と葉の燃焼との間には相関関係があって、ある程度熱くなっていなければ、火が消えやすくなる。
2回目次は、2回目の着火のための準備作業だ。1回目の着火で、葉の表層部は盛り上がって炭化している。一部に白い灰になっている部分も交じるだろう。こ れらをタンパーで軽く押し込みながら、上の方から炭化葉と灰を粉状にして表面全体をならす。そして2回目の点火。着火した後も、マッチをボウル上にかざし続け、軸の最後まで使って葉の水分をできるだけ飛ばす。着火を1回だけにする人もいると思うが、水分を飛ばすという意味で2本使いたい。
ボウル上部の葉はとても軽く詰めてあるので、当初、着火を確実なものにするために火種の拡大に努めた後、今度は火種を表層に限定する作業を行う。これは、火が下に潜ると、葉の消費が速くなるからだ。具体的な作業としては、さらに燃えて柔らかくなった部分をタンパーでちょっと押し込んでやるのである。すると、火はスッーと上で燃えるようになる。
3:序盤
序盤とは、火種の位置が表層の中央に定位し燃焼が安定するまでをいう。ボウル内の葉は、水分が飛んで 徐々に堅くなる。
これ以降は吸いきるまで親指をボウルの手前に、人差し指、中指、薬指をそろえて向こう側からボウル全体を巻くようにつかみ、小指の上側面がボウルの底に触れるようにする。そうやってボウルの熱い場所を知ることで、火種の位置が詰めた葉のどこにあるか、を感知できるようにするためだ。上から見た火の位置と火種の位置が異なっていることはよくあることである。火種の位置を常に確認しておくことが中盤以降で極めて重要となる。
この時点では、表面は白い灰の比較的小さな層と、黒く炭化した葉の層の2つのパートになっている。この火種を表層からその奥の炭と未炭化葉にまたがっている部分に拡大させるように努める。
ボウル自体の温度も、火が安定するほどまでは上がってはおらず、消えやすい。このため、熱くてボウルが握っていられなくなるほどには決してしないが、火をある程度強くする必要がある。ボウルの温度を上げるのも火種拡大の目的だ。
葉は当初より堅くなっているとはいえ、弾力が全くない中盤以降の堅さまでには至っていない。火種は最初、比較的小さく灰の表層に薄く存在していたが、強めに吸い吐きするすることで拡大し、そのことで安定させることに成功すると、スモーキングは序盤の2番目の段階に入る。火種は往々にして中心から外れた場所にある。そんな火種を、吸い進めて炭と灰が増えるにつれて今度は火種をボウルの葉の上層・中央部に移して、そこで維持するように持っていくのである。
ここから、ロングスモーキングの中核部分に入っていくことになる。では、火種を上層部の炭化層にどうやって移動させ、かつ中央部に移動させるのか。それらの作業は並行して進む。
火種の維持と位置の移動は、炭の供給によって行うものである。まず指に伝わる熱さの感覚を通して火種の位置を確認。その後、火種のある場所の反対側にある炭をタンパーのエッジを使って火種のある方に寄 せ、灰と炭を混ぜ合わせる。混合した灰と炭は燃焼を続けながら、火種がボウルの反対側(寄せた炭が元々あった方向)へと、徐々に移動を始める。また、ボウル表面から深い位置に火種がある場合も、この炭を表層 に供給する作業で上昇しやすくなる。これは、未炭化葉よりも炭になった葉の方が燃えやすいからだ。
火種の位置が当初、中心からズレていても、反対側の炭を移動させ、混ぜて燃焼させる作業がボウルの円周を一巡したころには、ちょうど中心上部で燃焼するようになっているはずだ。
火種はいったん拡大した後、灰と炭との混合物の層で燃えるようになると、今度 はできるだけ小さく保つようにする。たばこの味が安定してくるのもこの段階からだ。 ただ、ロングスモーキングでは、煙を味わうために口腔内いっぱいに吸い込んだのでは燃焼が速くなる。マウスピースから口を離してはならない。ふいごのように口を使って、常に「弱く吸って、弱く吐く」ようにする。吸う強さと吐く強さは、6対4程度にしている。たばこをむやみに味わったり、退屈に負けて本を読んだりすると、集中が切れて、つい深く吸ってしまったり、吸い忘れて火を消したりしてしまいがちになるので、心しておかなければならない。
火種をボウル内上層部の炭化葉の層で保ちながら、ドローとブロウを繰り返して吸い進めていく、というのがロングスモーキングの基本的な作業だ。 だが、表層部の火が中央に移っても深い位置の火種の移動はゆっくりとしか進まない。そこで、ボウルを包んでいる指の感触が頼りになる。深い位置の火種は中心から最も暖かいと感じる方にずれているのだ。
その火種を移動させる作業だ。最も温かいと感じる方をタンパーの角を使って葉を斜めに押し込みながら、同時に少し強く吹くのである。火種の反対側周辺の葉は斜めに押し込まれることで、動くきっかけを与えられ、強く吹かれることで葉の密度が低くなって火種反対側方向への通気口が出来ることになる。火は通気しやすい方向へ燃え進んでいくので、深い位置の火種が中心部へと移っていくというわけだ。この作業もボウル円周に沿って一巡するころまでには、火種が中心に移っている。
4:中盤
火が安定し、火種の位置は表層にある炭の層中央に定位し、燃焼が安定している状態をいう。ボウル内側の壁に炭化した葉がこびり付き、燃焼が進む表層は少し凹んだようになる。ボウル内にある葉全体のうち相当量の炭化も進んでいる。
この段階では、火種がボウル内にある葉の上層中央にある。葉の炭化は下に出っ張った半球状になっているはずなので、火種は空気の流れに沿って、底にある煙道方向に燃え進んでいこうとする。火種が煙道に達すると、燃える葉がなくなって火が消えてしまう「煙突現象」を起こしてしまう。このため、表層の炭を灰と混ぜ合わせて火種の上に供給する一方、ボウル周辺部の炭と未燃焼の葉をタンパーで中心に向け、押さえて寄せる。そうすることで、火種より深いところにある気道(炭・未燃焼葉の隙間)が閉まるようになる。
既に灰の量も増えているが、それが原因で消えてしまう心配はない。多くて気になるようならば、タンパーを軽く当てて、少しブロウすると、完全に燃え尽きて細かいパウダー状になった灰は飛ばすことができる。それ以外の灰は、最後まで捨てる必要はないし、捨ててはならない。灰と一緒にまだ吸える炭の粉が交じっていて、それまで捨てることになるからだ。また灰には、燃焼を緩やかにする働きもある。
ジュースが出やすいのもこの段階だ。未燃焼葉の乾燥が盛んに進むためだ。ジュースが大量に生じてボウルの底に溜まるような事態になると、火は消えやすくなるので、ジュースを排出する作業が必要になる。これには、ボウルを少し高く掲げてジュースを煙道内に誘い込んだ上で、火をちょっと強めにしてマウスピースのリップを下に向けて掌に押し当てると簡単に抜くことができる。スモーキングでジュースを抜くのはこの一度だけにしている。
ドロー・ブロウを優しくすることで、火種を小さく、そしてその温度をなるべく低くすると、ジュースの発生は最小限に抑えることができる。熱くさせると、ジュースが溜まりやすくなる。パイプを吸うものならば誰もが経験していることである。
またこの段階では、炭の中で燃焼が進んでいるので、吸い過ぎて火種を過熱させたり、逆に火種を小さくさせ過ぎて立ち消える危険が付きまとう。私が最もよく立ち消えさせたのはこの段階でだった。
ロングスモーキングで継続して燃焼させるのは、この灰と炭の混合物である。炭化していないまだ褐色の葉を燃やそうとすると、より多くの火力が必要となって、過熱して葉の消費を速めたり、ジュースを大量に発生させたりして、結果としてスモーキング時間が短くなってしまうだろう。
*燃焼の管理に失敗して、過熱した場合の対処での注意。それは、急激に温度を下げないことだ。ドロー・ブローを止めて、ボウルの温度が下がるまで待つようなことをすると、火が消えてしまっていたということになりかねない。火種が小さくなったのに、ボウルは熱いまま、ということも往々にしてあることなのである。
終盤
タンパーを真っ直ぐに差し込んだのではタンパーの太さが邪魔になって、残りの葉の調整が利かなくなっ てしまう最終盤へのつなぎの過程である。既に葉はほとんどが炭化している。
最終盤はボウル内の葉の形状に理想的な形があって、それに向けて形を整え ながら吸い進めていく。
終盤になると底に当てている指で温度をみながらタンパーをこまめに使って葉 を粉状にしていく。終わりになるほど葉の層が薄くなるので「吹き上げ」に注意しな がら、タンパーを軽く当てて静かに吹く。指の腹で絶えず温度を測りながら吸い口 の方へ火が回るのを防ぐ。
灰は底に近づくほど細かくなるので、未燃焼の葉(炭?)と混ぜ合わせるようにタンパーを使う。灰に炭を混 ぜると、灰ももう一度燃えることに寄与するので、タンパーを軽く押さえながら静かに吹くようにして表層を燃や すこことも交える。ジュースはここでは抜かないようにする。何度も抜いていると、炭に含まれる水分が少なく なって、燃える速度が速まるからだ。
注:パイプを握った指で火の在処を確かめながら、「心地よい温度」を保つように心がけることが重要。熱く て握っていられないようにしてはならないし、新しいパイプは焦げやすく、葉の消費も激しい。
6:最終盤
炭も灰も薄い層状になってしまっているので、少しずつ吸うようにする。通常のブロウをすると、たちどころに「吹き上げ」てしまう。
火種は最後、中心から煙道方向に偏る傾向が出てくる。ただ、火種は炭のある方へ回っていくので、タンパーを軽く当ててごく弱く吹いたり吸ったりを繰り返すことで偏りを修正する。ジュースはこの段階では煙道に入っている。気にする必要はないだろう。
その際、火種は炭のある方へ回っていくと言っても、炭の密度は低い。炭を供給してやる必要が出てくる。しかし、タンパーの太さが邪魔になって、こねて炭を寄せ ていく方法は採れない。
どうするか。私は、ボウルに差し込んで葉を軽く押さえた状態のタンパーを前方に倒したうえで少し回転させるのである。そうすると、煙道近辺に位置する火種に、周辺の炭が供給されるというわけだ。
たばこを吸い進めた終盤以降、つまり炭(カーボンケーキ)が半球状になった段階から吸いきるまでの過程は、ここで紹介した作業の繰り返しによって、1時間以上保たせることができるようになるはずだ。
ロングスモーキングに適したパイプ :
葉の詰め方の考察 :
最適なブロウとフロー
木内成一氏パイプロングスモーキング主な成績と略歴
最長記録164分46秒
第8回中四国大会 開催日:2009.9.27 場所: オークラホテル高松 個人1位 木内成一(徳島PC) 164分46秒 |
全日本大会成績 第12回 開催日:1984.11.04 場所:東京上野・東天紅 個人1位木内成一(徳島PC) 149分16秒 |
第13回 開催日:1985.11.24 場所: 横浜ザ・ホテル・ヨコハマ 個人1位高岡豊(鹿児島) 185分27秒 個人2位木内成一(徳島PC) 124分37秒 |
第16回 開催日:1988.09.25 場所:岡山岡山プラザホテル 個人1位木内成一(徳島PC) 142分34秒 |
第17回 開催日:1989.10.01 場所:東京日本たばこ産業東京工場 個人1位木内成一(徳島PC) 126分1秒 |
第21回 開催日:1994.09.25 場所:秦野グランドホテル神奈中 個人1位木内成一(徳島PC) 110分50秒 |
第22回 開催日:1995.10.15 場所:徳島徳島プリンスホテル 個人1位木内成一(徳島PC) 145分21秒 |
第23回 開催日:1996.09.15 場所:青森ホテル青森 個人1位木内成一(徳島PC) 138分16秒 |
第25回 開催日:1998.11.08 場所:東京虎ノ門JTアフィニティーホール 個人1位木内成一(徳島PC) 143分58秒 |
第29回 開催日:2002.11.17 場所:静岡ホテルアソシア静岡ターミナル 個人1位木内成一(徳島PC) 123分46秒 |
第35回 開催日:2008.10.12 場所:東京浅草ビューホテル 個人1位木内成一(徳島PC) 126分43秒 |
第36回 開催日:2009.10.25 場所:岡山倉敷アイビースクエアフローラルコート 個人1位木内成一(徳島PC) 141分49秒 |
略歴
1922(大正12)年1月10日 | 徳島市西新町でレコード店を営む真島家(現阿波市)の5男として生まれる 現阿波市役所職員を経て、満州鉄道に入社 その後現地で応召 終戦、シベリアに2年間抑留 |
1948年 | 上板町で金物商・水道工事業を開業 |
1980年ごろ | パイプ喫煙を開始。ほぼ同時に徳島パイプクラブに参加。 友人の山蔭武臣氏(徳島パイプクラブ元会長)の勧めと、イタリア旅行の際、現地の老人がパイプをふかして いるのを見て「さもうまそうだった」のがクラブ参加のきっかけになった。当時は、パイプボウルの半分程度ま でしか吸わないのがパイプ喫煙の常識になっていた |
以下、ロングスモーキング大会で活躍。全日本チャンピオン10回獲得など多数の優勝・入賞を経験 |
|
1983年 | 上板町商工会会長に就任(1997年まで) |
2013年9月13日 | 死去 |
アルバム
35回大会東京 開催日:2008.10.12/場所:浅草ビューホテル/優勝:木内成一126分43秒36回大会岡山 開催日:2009.10.25/場所:倉敷アイビースクエア/優勝:木内成一141分49秒
◇ 日本パイプクラブ連盟
訃報
徳島パイプクラブ名誉会長の木内成一さんが、平成25 年9 月13 日昼に逝去なさいました。享年90。木内さんは、パイプスモーキンの全国大会、地区大会で数々の偉業を成し遂げられた方でした。お人 柄は、温和で謙虚。教えを請われれば、気さくにロングスモーキングの技を伝授なさる方でした。傘寿を超えて、次々に全日本大会、地区大会で優勝を飾られ、大記録を樹立なさるその矍鑠ぶりは、パイプスモーカーの驚嘆の的でした。在りし日の木内さんを偲ぶ文章がパイプ仲間から寄せられましたので、ここに御冥福を祈りつつ掲載致します。
◇徳島パイプクラブ会長藤本英明
巨匠逝く!!
平成25年9月13日昼過ぎ突然の訃報に驚いた!私の師と仰いでいた木内氏が亡くなり心身ともにガックリ……。パイプクラブを大事に想い後継者を育ててくれた人格者でした。昨年あたりから体調を崩されていたが、徳島市内から20km程離れた自宅から例会には毎月欠かさず参加されていた。しかし、高齢のため自家用車の運転は家族に反対され、バスで1時間余をかけて参加されていた。この熱意には私達会員も頭が下がる思いでした。
ところが今夏7、8月は欠席された。今夏の異常気象、暑さは格別だったから、何処か体調が悪いのではないかと心配していた矢先の訃報でした。
パイプスモーキング大会では過去数々の大記録を持ち、素晴しい技術の持ち主だった。日本の40年間にわたるパイプスモーキングの大会史上稀に見る人物であり、今後その様な人は二度と現れない気がする。
享年90と高齢者ではあるが惜しい人を亡くしてしまった。
木内氏、安らかにお眠り下さい。合掌
◇日本パイプクラブ連盟会長梶浦恭生
木内成一さんを偲ぶ
徳島パイプクラブ名誉会長の木内成一さんが亡くなられた。享年90
木内さんは全日本パイプスモーキング選手権大会では過去39回開催のうち、実に10回も優勝された。
この記録は今後も誰も追いつくことは出来ないであろう不滅のもので正にロングスモーキングの王者であられた。優勝を積み重ねる裏には、早く消えた際にはその原因をとことんまで追究されるとい研究熱心さがあった。
しかし木内さんのパイプに向かう姿勢をみると、記録を伸ばそうとの執念だけではなく、パイプに対する深い愛情があったからこそと思われる。
コンテストの際にパイプを喫う姿勢を全く変えず2時間以上を吸いきる集中力と忍耐力にはまさに驚異的であった。ボウルを支える3本の指の感触で、ボウルの中の火の位置を絶えず把握しておられたという。木内さんはかって病魔に犯されて2回の数年の中断がありながらもパイプを離さず、パイプを喫い続けて優勝を積み重ね、誰もが近寄れない金字塔を打ち立てられた。
ひと度コンテストが終了すれば柔和な人懐っこい顔に戻られる。今後は木内さんの温顔に接することは出来ないのかと思うと、悲しみに耐えられないものがある。
◇岡山パイプクラブ会長香山雅美
木内名人の思い出
木内さん
まだ逝かれるのは、早いですよ。
まだまだ色々と教えて欲しかった……。そして90代で全国大会優勝をしていただきたかった。
木内さんを多くのパイプ仲間は尊敬と憧れを込めて「木内名人」と呼びます。
過去39回を数える全日本パイプスモーキング選手大会において10度の優勝は文句なしの「名人」です。60代で3回、70代で5回、80代で2回の優勝は前人未到の大記録です。
しかもこの記録は数々の病気を乗り越えての結果ですから、私達後に続く者にとって大変元気付けられます。
皆さまご存知の様に、木内名人は人格者でした。普通の人だったらこれほど優勝されていたら、尊大な言動をするかもしれません。しかし、木内名人はその様な事は一切なく、いつも控えめに「まだまだ未熟者です」と大変謙虚でした。
たばこの喫い方のコツを聞いたら、懇切丁寧に教えて下さいました。尤もお聞きしても、私達未熟者にはその何分の一しか身につきませんでしたが、お陰様で私も全国チャンピオンの一人に加えていただきました。
30余年にわたる長いお付き合いの中で、特に思い出に残る大会がいくつかあります。
第29回の静岡大会の時、木内名人が1位、私が2位になった時。「実は肺気腫を患ったので、寂しいけれどこれが最後の大会になる。これからは君達の時代だから、精進しなさいよ」と激励されました。翌年の大会で私が優勝した時、その次の年に、岡山PC の藤原氏が優勝した時も「おめでとう。これからも頑張って下さい」の祝福のお電話を頂戴しました。
その後、徳島パイプクラブの例会にパイプは喫わなくても参加され、他の方がパイプを喫っているのを微笑みながら見ていたそうです。第3回中四国徳島大会の時、見学に来るだけとのことでしたが、当日になって急遽参加されました。
「もし私が倒れたら、この酸素を吸わせて下さい。」と、酸素ボンベを示されました。
「大丈夫ですか?」と聞くと「医者にこのままたばこを止めて何年生きられますかと聞いたが、『80歳を過ぎているので……』」とはっきり返事しなかった。シガレットと違ってパイプなら肺に負担を掛ないので多分大丈夫だろう」と笑っておられました。
結果は2位。
木内名人復活!
その後の中四国大会では参加した4回すべて優勝!
中でも第8回の高松大会では、164 分46 秒の日本歴代二位の素晴らしい記録を出されたのは見事でした。80代でのこの記録は快挙です。さらに、全日本大会では35回東京、36回岡山と80代で連続優勝なさいました!
これも破られることは無い不滅の記録でしょう。残された私達は、木内名人を目標に精進します。空の上から見守っていて下さい。
合掌
編集:徳島パイプクラブ
会長藤本英明