パイプ座談会
パイプの葉 座談会 最終回
Q子: それでは、そろそろこの座談会もお開きに致したく存じます。そこで「パイプ通」を自認される皆様方が、今吸っておられる、煙草の葉っぱの銘柄をご披露願えませんか? まず、松尾さんから。
松尾: 色々ですね。一つの銘柄に固定していないですね。その時によって違う。例えば、やっぱり冬場と夏場とでは違う。ビールの味だって季節によって好みの味が違ってくるように、その時によって違う。煙草も季節によって大分味わいが違うから決まっていないです。むしろ、吸っていない煙草がたくさんあるから、珍しい煙草を見つけりゃ、吸ってみたいというか………
Q子: では、新しい銘柄を買う場合には、どういう基準で買いますか?
松尾: 人から聞いたというのもあるし、パッケージの包装や缶のラベルが綺麗だとか、先輩方が吸っているとか、あるいは珍しいというか、いつも買っている店には置いてないとか……
Q子: 煙草のパッケージには情報が少ないじゃないですか? ワインみたいにね。
外川: だから、吸ってみろというのが煙草の世界だね。
松尾: 吸ってみないと分からないね。
外川: まず、やってみろということね。自分に合わなくて、捨てた煙草もあるしね。
森谷: 私は、自分に合わない葉っぱは、適当にブレンドして他人に押しつける……
Q子: アハハハハ
外川: 僕の場合はね、25年間ずっとアンフォーラ。だから僕は一夫一婦制なんだ。
一同: アハハハハ
外川: だったんだけど、あるところから、今のこれ、プライベートクラブに切り替えた。
梶浦: どこが輸入しているの?
外川: 柘製作所が輸入した。ある時、これを吸ったら気に入って、今はこれ一本です。
松尾: 僕はノンフレーバー系とフレーバー系を二つ持ち歩いている。ノンフレーバー系でいつも持ち歩いているのが、ダンヒルのフレーク。ちっちゃいケースで、便利なんでね。
梶浦: あれはいいよ。
松尾: あれがだいたい基本ですね。自分が入る店、バーによっても色々と雰囲気があるから。いきなり甘い香料のものをやって、感覚が分からなくなるよりも、香料のない煙草オンリーのノンフレーバーのものから始めるね。 持ち歩くフレーバー系のは、あんまりきつくないやつ。馴染みで、よく気心の知れた人たちの間では、甘く凄く香りが強いのを吸うことも、たまにありますけど、だいたいそんなのは家で吸うね。 だから持ち歩くのは、柔らかめのヨーロピアンスタイルの葉っぱね。そういう意味でラタキアや、きつい葉っぱは持ち歩かないね。そんなのは家で吸うね。
森谷: それなら、バルカン・ソブラニー(と自慢げに、煙草缶を見せる)
松尾: あっ、これが!!!
外川: 吸ったことないの?
松尾: だから、吸ったことないです。
森谷: あ、ないんだ。(と余裕を示す)
梶浦: 製造が終わったからね。
外川: 貰っていいよね。(と勝手に缶から葉っぱをパイプに詰める)。これ、バルカン・ソブラニーは(JPSC最長老の世話人の)関口さんご愛用のやつ。
松尾: バルカン・ソブラニーはモルトウィスキーに譬えると……
森谷: ラフロイグだね。煙草版のアイラモルト。
外川: 全部、貰って帰ったら?
松尾: 缶ごと? 本当にいいの?
森谷: 諦めるよ。いいよ。
松尾: わぁー、嬉しいな。わぁー、いい香りだな。
外川: 森谷がこうやって小さな缶に分けて持ってくるときは、他人にあげて構わないと思って持ってくるんだよ。
松尾: あんまり恩着せがましく言われないのがいい。 (この後、カフェ・ジュリエッタの女主人も加わって、しばしJPSCの内輪話が続く)
梶浦: (持参したご自慢の缶を披露しながら)ただ、缶の問題は持ち歩くのが面倒だな。パウチに移し替えてもいいけど、そこまでするのは、面倒だな。移し替えたりすると味も落ちる感じがする。(開けるのに)コインはないかな?
森谷: はい、ありますよ。
梶浦: 開けるのには、10円玉が丁度使いやすいね。
外川: 俺は100円玉がいい。(と、こだわりを示す)
梶浦: 開いた。果たして、どういう香りがするか……。(と相好を崩して期待感一杯)
外川: (梶浦氏の期待の表情を見て、冷ややかに)今、そうやっているけどね、男にとって言わせれば、変な話だけど、(初めての缶を開ける時の気持ちは、)女の子のスカートをめくる時の気持ちに似ているね。
森谷: (怪訝な表情で)ふーん。あれ、缶を開けるときの感動が? そんな気持ちで吸ってるんだ……。じゃあ、補導覚悟だね。
梶浦: (缶を開けて)それほど、いきなり、ムッとラタキア(の香り)が来ないな。
Q子: いやいや、結構、ラタキアの香りが来ています。
外川: もっと缶の蓋を開けて嗅いでみないとだめだよ。(と梶浦氏に)
Q子: みんな、殿方はそういう風なのかな?
松尾: いや、僕はそういう風に考えたことは一度もない。
梶浦: 外川さんが、そうかんじるだけ。 (この後、しばらくテーマと関係のない雑談が続く)
Q子: 私は、隣に女性がいるときは、フレーバー系の香りのする葉っぱを吸います。隣に渋い素敵なオジサマだなと思う人がいるときには、ラタキアの葉を吸いますけど。
森谷: 渋谷に女の子のバーテンダーのいるシガー・バーがあって、女の子のバーテンにパイプの葉っぱを数種類見せたら、「ラタキアが一番おいしそうです」と言われたよ。
外川: それは飲んでいる酒にもよるんだよ。
梶浦: ラタキアもね、フワッーと吸うと、結構香りがいいんだよ。
森谷: ラタキアがそんな悪い香りがする筈がない。梶浦さんが持ってきたこの缶の葉っぱは、色はラタキアだけど、香りは死んでいると思うね。(と歯に衣着せぬ寸評)
梶浦: (相手にせずに)いつも思うんだけど、自分が吸っていて感じている香りと、横にいて煙を嗅いでいる香りは全然違うんだよね。
外川: 要はね。しょっちゅう、同じ葉っぱを吸っていると味も香りも分からなくなるんだよ。
梶浦: 慣れてしまうからな。
外川: だから旅行に行って、空気の澄んだ高原で吸ってみると、同じ葉っぱでも美味しく感じるんだよ。
森谷: 逆に、高原に住んでいる人は北京や上海のスモッグが新鮮なんだよね。それと同じ。
Q子: ハハハハハ
梶浦: やっぱり、美味しい吸い方はボウルに葉っぱをたくさん詰めてバーッと大きく吸った方が美味しいな。
森谷: パイプによって味が違うよ。それはちょっと初心者レベルの話ではないの?
Q子: そう、そう、そう。
松尾: 葉っぱの話からずれるけど、初心者によく聞かれるのは、「シガーとパイプ、どっちがいいですか?」という質問。僕はシガーから入ったんだけど、いまだにシガーの方が上等だなって感じがする。もっとも今ではシガーは滅多に吸わずに、いつもはパイプになったんだけどね。 僕は、パイプは「吸っている行為が愉しいんだ」と答えています。シガーは味と香りを愉しんでいるんだけど、パイプは吸っている行為が愉しい。そこで小さな焚き火をしている、火遊びをしている、という愉しさだね。
外川: それでクリスマスには、(ボウルの上に)小さな妖精が来て、火を囲んで踊っているというわけだろ?
松尾: 火祭りの踊りですね。ポエムですよ。ポエム。
森谷: 放火犯と同じね。対象が違うだけで……。
松尾: 何で、放火犯なの?
外川: ああいう奴がいるの、パイプの世界には。全てを破壊しようとする(ひねくれた)奴が。
森谷: パイプの中で燃えた、燃えたという限り、警察も来ないよね。
外川: (森谷発言を無視して)パイプはボーッとするというか、思考する時間がとれる。シガレットよりは。
森谷: そうですかね?
梶浦: パイプはテレビを見ながら吸っても美味しくないんだ。そこがシガレットと違う。パイプだけ吸っている方が美味しい。僕はそう思うよ。本を読みながらパイプを吸っても、ちっとも美味しくない。
松尾: パイプをじっくり味わうということですね。葉巻も同じですよね。
梶浦: 不思議なもので、吸っている行為がやはりいいんだ。シガレットは疲れた時には美味しいかもしれないが、それだけ吸っていて果たして美味しいかなって思う。
外川: 誰も言わないけど、パイプで大事なのは吸い口なんだよ。シガレットは紙じゃん。だからシガレットホールダーがある。パイプは直接咥える。僕はパイプの価値は吸い口が半分、ボウルが半分だと思う。パイプを買ってボウルは気に入っても、吸い口が気に入らないときは二度も三度も作り替えるね。
Q子: ふーん。
外川: そうすると、味がまったく変わってくる。
梶浦: それはあるね。微妙な違いがある。
森谷: 私は吸い口が二つあるパイプを持っている。もともとはテイスティング用のものらしいが、気分によって吸い口を変える。 (この後も、仕事をしながらのパイプの是非、パソコンとの相性など様々な話題が続きましたが、今回の議題と関係ないので割愛します)
Q子: パイプ喫煙の葉っぱを議題に、何となく不穏な雰囲気と緊張感を漂わせながらも、和気藹々と進んだ今回の座談会ですが、時間が来たので無理にまとめずに、話題四散のままの放談になったところでそろそろ締めたいと思います。読者の皆様方には、長い間ご清聴を煩わし、恐縮でございます。ご出席の皆様方、ご多忙の中、ありがとうございました。次回のパイプ座談会は、タンパーなどの小物談義を致したく考えております。