紫煙を楽しむ

紫煙を楽しむ

川原遊酔(かわはらゆうすい)の「紫煙を楽しむ」
喫煙の効用(その2)―喫煙者はアルツハイマー病のリスクが低い―

「アルツハイマー病」は、ドイツの精神科医で神経病理学者でもあったアルツハイマーが、一つのまとまった疾病として1906年に初めて報告した「痴呆」を主症状とする脳の変性疾患で、老化に伴う記憶障害(物忘れ)などが典型的です。最近では、「認知症」とも言われています。

喫煙者はアルツハイマー病のリスクが低いということを最初に報告したのは、オランダの研究グループ(van Dujinら)で、1991年の医学専門誌に掲載されました。彼らは、198人のアルツハイマー病患者及び性、年齢の合った同数の対照者を調査対象にした症例対照研究により、喫煙者群は非喫煙者群に比べて、アルツハイマー病が少ないこと(相対危険度で0.35、信頼限界0.16―0.78)を報告しました。つまり、喫煙者の方が、65%アルツハイマー病が少なったことになります。

その後、多くの同様の症例対照報研究が発表されたため、それらの19の報告を統合する研究(メタアナリシス)が行われた結果、統合オッズ比0.64で、有意に喫煙者群の方が、アルツハイマー病が少ないことが明らかにされました。

これらに対しては、非喫煙者群は、いわゆるたばこ病による死亡が少ないため、高齢化し、結果としてアルツハイマー病が多くなるのではないかとの批判があります。

一方、アルツハイマー病患者では、脳内アセチルコリンの遊離量が低下している傾向にあることから、喫煙又はニコチンにより、ニコチン性アセチルコリンレセプターを介するアセチルコリン遊離によるアルツハイマー病抑制効果が生化学的に示唆されています。

近年、喫煙とアルツハイマー病の関係が複雑化しつつあるのは、最初に喫煙者はアルツハイマー病のリスクが低いことを報告したオランダのグループのその後のコホート研究(1998年)により、ある種の遺伝子を持つ者では喫煙がアルツハイマー病の予防的効果を示したものの、統計的に有意ではなく、逆に、別の遺伝子を持つ者では喫煙が危険因子であることが示されたためです。

以上述べたとおり、症例対照研究では喫煙によるアルツハイマー病防止効果が明らかで、かつ、生化学的考察でニコチンによるアルツハイマー病抑制効果が示唆されていますが、その他の研究結果も合わせると、喫煙者はアルツハイマー病のリスクが低いとは必ずしも断定できない状況です。今後の研究の進展に待ちたいと思います。

川原遊酔(かわはらゆうすい)