紫煙を楽しむ

紫煙を楽しむ

川原遊酔(かわはらゆうすい)の「紫煙を楽しむ」
現代の魔女狩り

英仏100年戦争でオルレアンの奪還に功績のあったフランスの英雄的女性ジャンヌ・ダルクが宗教裁判にかけられ、火あぶりの刑に処せられたのが、1431年でした(図参照)。彼女は魔女の烙印を押されて処刑された最初の人とされていますが、魔女狩りの恐ろしいところは、一定の功績や存在理由のあった人間に対して、行政や宗教団体等による一方的な裁断によって葬り去るという点です。現代の魔女狩りの対象は、まさに「たばこ」ではないでしょうか。たばこが魔女狩りとなっている例は、枚挙に暇(いとま)がありませんが、以下に主な例を挙げてみたいと思います。

火刑に処されるジャンヌ・ダルク

最初の例は、公衆衛生分野では初めての国際的枠組条約である「たばこ規制枠組条約」です。この条約は2003年5月の世界保健総会で採択され、日本政府は2004年6月に受諾しています。当初から問題点として危惧されていたことは、個々のたばこ規制は、各国の裁量に委ねられているにもかかわらず、長年親しまれてきた嗜好品としてのたばこへの過度の規制につながるのではないかということでした。案の定、最近の禁煙団体の動きをみると、この条約の条項を楯にとって関係方面に圧力をかける行為が目立つようになっています。

次の例は、2003年5月に施行された「健康増進法」(厚生労働省所管)です。同法25条では、学校、体育館、病院、飲食店、その他多数の者が利用する施設を管理する者は、受動喫煙防止に関する対策を講ずることに努めること(努力規定)となっているにもかかわらず、同法施行を理由として、公共の場所における分煙化を飛び越して禁煙化が加速したところです。今から4年ほど前ですが、「健康増進法により、当館は全面禁煙になりました」とか、「健康増進法により、このバス停は禁煙になりました」とかの看板がやたら目についたものです。ここで厚生労働省所管のもう一つ例としてあげておかなければならないのが、国民の健康づくりのための10ヵ年計画として2000年から始められた「健康日本21」です。最初に策定する時にも、また、中間年で見直しを行う時にも問題となったことは、喫煙率半減目標値です。国のレベルでは諸般の事情からこの目標値の設定は見送られましたが、地方計画では既に喫煙率削減目標値を採用している自治体も存在しています。

もう一つの例は、千代田区に始まった自治体等による「路上喫煙禁止条例」です。罰則がある場合とない場合がありますが、この条例に基づいて路上喫煙や歩行喫煙が禁止されたため、ただでさえ、職場や家庭において喫煙可能スペースが狭められている愛煙家にとっては、ダメ押しのような規制となりました。

また、最近では、タクシー車内の全面禁煙、レストランや食堂の全面禁煙に止まらず、あらゆる場所で禁煙を叫ぶ風潮が強くなってきました。まさに、たばこが現代の魔女狩りの対象になっています。これに対してどのように対処すべきかは、難しい面もありますが、やはり文化の多様性や寛容性の大切さについて機会を捉えて訴える努力が必要だと考えます。

人間は愚かな行為を続けないと生きてゆけない側面がありますので、「たばこ」の次は、「肥満(メタボ)」、「アルコール」、「ファースト・フード」などが魔女狩りにあうかもしれません。既に、その前兆もみられます。

川原遊酔(かわはらゆうすい)