紫煙を楽しむ

紫煙を楽しむ

川原遊酔(かわはらゆうすい)の「紫煙を楽しむ」
煙の組成―主流煙と副流煙

たばこの煙は、どんな組成で構成されているのだろうか? こんな素朴な疑問は、たばこを愛用する人なら、同じように持つことと思われます。今回は、改めて、たばこ煙の組成について取り上げてみたいと思います。

たばこ煙の成分量について歴史的に振り返ると、1960年代あたりから、シガレットの消費者の関心が、たばこ煙中のタールとニコチンに向いてきましたし、低タール・低ニコチンのシガレットが人気を博してきたことから、たばこメーカー等が主流煙中のタール・ニコチン量を公表するようになりました。以前に比べて、現在は低タール・低ニコチン化が顕著ですが、現在のJT製品では、「ピース」の、タール28mg、ニコチン2.3mgから、「マイルドセブン・ワン」の、タール1mg、ニコチン0.1mgの範囲です。

最初に分析対象になったのは、シガレットの先端から立ち昇る紫煙としての「副流煙」の方ではなく、喫煙者が吸い込む「主流煙」の方でしたが、基本的には、主流煙であろうと、副流煙であろうと、葉たばこが元々持つ成分(ニコチン等)とそれが燃焼した結果で生成する成分並びに空気中の成分が混入した成分などで構成されており、たばこ煙中成分としては、空気中成分の窒素が最も多い成分です。

主流煙の測定法は、国際的に決められた標準喫煙条件(1分間に1回、2秒間吸煙、吸煙容量: 35ml、吸殻長: フィルター付で30mm、両切で23mmなどの条件)で自動喫煙機を使って喫煙させて粒子相(タール・ニコチンを含む)を特殊フィルターに捕集し、ガス・蒸気相を別に捕集して、それぞれ成分分析を行い、一本当たりの量として算出しています。一方、副流煙は、主流煙を吸煙していない58秒間に自然に立ち昇る煙を捕集して同様の分析を行い、一本当たりの量として算出しています。このような測定法を採る限りは、副流煙の方が成分量が多くなる傾向にあるのは当然とも言えます。

なお、パイプたばこや葉巻は、標準喫煙条件が国際的に決められていないため、測定例がほとんどありませんが、試行的に測定した報告が少数例あり、それによれば、パイプたばこや葉巻の方がシガレットに比べて、刺激性成分が多く、アルカリ性の傾向にあります。

以下の表に、実際に測定されたシガレットの主流煙(MS)中の成分量と副流煙との成分比(SS/MS)を示します。

この表からわかるように、前述の方法で測定すれば、一般に副流煙の方が主流煙に比べて成分量が多い(SS/MSが1.0以上の)傾向にありますが、環境中たばこ煙(ETS)は、副流煙と喫煙者が吐き出した主流煙が混じり合って希釈拡散されることを考慮する必要があります。また、アンモニアやアクロレインのような刺激性成分は副流煙の方が特異的に多い傾向にあります。副流煙(紫煙)が目にしみやすいのは、このような刺激性成分によるものです。


表 シガレットの主流煙中の成分量及び主流煙と副流煙との比
  主流煙中の成分量 SS/MS
粒子相    
タール 15-40mg 1.3-1.9
ニコチン 1-2.5mg 2.6-3.3
フェノール 60-140μg 1.6-3.0
ベンツピレン 20-40ng 2.5-3.5
N-ニトロソノルニコチン 200-3,000ng 0.5-3
ガス相    
二酸化炭素 20-40mg 8-11
一酸化炭素 10-23mg 2.5-4.7
アンモニア 50-130μg 40-170
アクロレイン 60-100μg 8-15
出典: National Research Council 1986より抜粋粋
川原遊酔(かわはらゆうすい)