紫煙を楽しむ

紫煙を楽しむ

川原遊酔(かわはらゆうすい)の「紫煙を楽しむ」
文理融合

ご承知のとおり、学問分野には、大きく分けて、文系学問と理系学問があります。一般には、両者の間には、学問的な垣根があり、文系学問を信奉する文系人間と理系学問を信奉する理系人間が別個に存在していることが多い傾向にあります。物事が単純な場合は、文系学問と理系学問が分かれていても支障は生じなかったかもしれません。

しかしながら、人類にとって解決困難な問題、例えば、地球環境問題とか生命倫理問題とか異文化理解とかは、文系学問と理系学問を統合した考え方を持たないと、対処できなくなってきています。文系学問と理系学問を統合すれば、そこにシナジー効果が生れ、問題解決への糸口が見えてきます。地球環境問題で言えば、地球物理学や環境科学のような理系学問の成果の上に、環境行政学や環境経営学のような文系学問の成果を積み上げることをしないと、問題解決に繋がらない、つまり、文理融合的な発想が求められているところです。

また、いろいろな学問を総合した考え方、すなわち、学際的(interdisciplinary)発想も必要になってきています。具体的には、環境問題を地球規模(global)で考えるとともに地域規模(local)でも考えるという意味で、”glocal”という新語も生まれ、待ったなしの地球環境問題の解決のために総合科学的な取組が行われつつあります。

たばこ問題においても、これからは、文理融合的な発想や学際的な発想が求められていると考えます。喫煙の健康への影響は、疫学、公衆衛生学、病理学、薬理学、臨床医学、分析化学などの医学・化学分野(理系)からの各種の報告が契機となってきましたが、それに対して、どのような対応策を取るべきかとか、たばこの歴史・文化を踏まえてどのように考えるべきかについては、行政学、経営学、文化人類学、歴史学、社会学、心理学、哲学などの文系分野に係わる事項ですので、文理融合的な発想と学際的な発想がたばこ問題でも必要になります。たばこ問題に対して公衆衛生学的観点のみからアプローチすれば、答は、即禁煙となるかもしれませんが、文理融合的な発想と学際的な発想(公共の福祉に反するほどには、喫煙は悪ではないとの結論)からすれば、答は、適切な喫煙規制と個人の自由選択になると思われます。世の中には、リスクの全くない製品・サービスなどはないと思いますので、文理融合的には、「リスクとつきあいながら、どのように人生を楽しむか」は、「個々人の判断と選択の問題」に換言されると考えます。

パイプ愛好家は、文系人間から理系人間まで多士済々ですが、既に、文系的発想や理系的発想に捉われない方々、すなわち、文理融合的な発想で対処している方々が多いという印象を筆者としても持っているところです。今後とも、文系人間であろうと理系人間であろうと、学問的な垣根を果敢に越え、文理融合的な発想で、幅広い論陣を張っていただきたいと願っている次第です。

川原遊酔(かわはらゆうすい)