禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

パイプ煙草と「白い粉」

雲造院杢杢愛煙信士

コロナ騒動で延期になっていた東京マラソン。選手たちが走る姿を久しぶりに直に観戦しようと思って、大会前日、場所探しの下見に出かけました。
あちこち歩いているうちに、お腹が空いてきて、時計を見たら午後2時20分。ふと、このあたりにランチ食べ放題の美味しい店があったことを思い出しました。そのお店は2時半までに入らないとランチタイム終了です。
小走りで店に向かっていたところ、2人の若い警察官から声をかけられました。


「なぜ走っているのですか?」
「ランチ食べ放題の店に2時30分までに入店しないと駄目なので走っているんです」
「お忙しいところ申し訳ありませんが、少し御協力して頂けませんか?」


例の職務質問というやつのようです。
私は一見、善良そうなおじさんに見えるらしく、これまで職務質問をされた経験がありません。
(一度、ものは試しで実地経験してみるか‥‥)と好奇心がちょっと湧きました。


「リュックの中を拝見できませんか」
「良いですよ」とリュックを肩から下ろして中を見せました。


二人のお巡りさんは、私がリュックの中に入れていた5缶のパイプ煙草にとても興味津々なようで、
「これは?」
「煙草ですよ」と蓋を開けて中を見せました。
「これが、煙草ですか?」
「このパイプに詰めて喫うのですよ」とパイプに詰めて火を点けてみせようとすると
「ここは禁煙です。喫煙所以外は吸えません」


言い返したい事は山ほどありましたが、もうすぐ2時半です。職務質問を簡単に済ませたいので素直にしまうと、次のパイプ缶を開けるよう促されました。
「これは!?」


お巡りさんの目が急に輝き、口調がキツくなりました。
どうやら二人のお巡りさんは、ネイビーカットの固形パイプ煙草を見て、突然何かが脳裏に閃いたようです。
そう。大麻樹脂!!!

私がパイプを5本持っていたのも不審極まりないようです。
「パイプをなぜたくさん持ち歩いているのですか?」
「煙草を喫うためです」
「5本も必要ですか?」
「喫う煙草の種類や銘柄に応じてパイプを替えるんですよ。パイプスモーカーには常識。オタクらが物を知らないだけですよ」
「‥‥‥‥」
お巡りさんは、黙々と私のリュックの中身を調べ出しはじめました。
とても職務熱心です。感心です。


次の瞬間、リュックのポケットからジップロックのビニール袋に入れた「白い粉」が出て来ました。


出ました〜!!!」と突然大きな声。
「これが出て来た以上、交番までご同行願います」


凛とした勝ち誇った声です。


「これは塩。宮古島の雪塩。唐揚げや天ぷらに付けると美味しいのでね。舐めれば分かります。舐めてごらんなさい」


私には果たしてヘロインなのかコカインなのか、その方面は縁が無いのでわかりませんが、お巡りさんたちは「白い粉」が麻薬であると確信なさったようです。
私の言う事に全く聞く耳を持たず、私が逃げないように前後をさっと塞ぎました。


(やれやれ、食べ放題のランチタイムに間に合わなくなった‥‥。腹が減ったな‥‥)と思いながら、素直に近くの交番まで任意同行に応じました。


交番に連れて行かれる途中、お巡りさんは
「もうすっかり観念された様ですね。素直に認めればこちらとしても悪い様にしませんよ」
「いや、もうランチには間に合わないので、オタクらにお付き合いします。ご忠告して置きますが、オタクらが麻薬と疑っているのは、パイプ煙草と塩です。調べるだけ無駄。今、私を解放したら穏便に済ませますが、これ以上私に関わるとオタクら大恥をかく羽目になりますよ」


無線で「麻薬不法所持の現行犯を身柄確保」と、所轄の警察署に連絡したらしく応援のパトカーが何台もサイレンを鳴らして近づいてくる音が聞こえてきます。
交番の前で「ちょっと一服します」と断って、隣のビルの敷地でパイプ煙草に火を点けると、
「止めなさい!!! 逮捕しますよ!!!」
「逮捕の理由は何ですか?」
「ここは禁煙地区です」


そこで私はスマートフォンで区の禁煙条例を検索して見せてやり、
「公共の場所での歩き煙草、煙草ポイ捨ては24時間禁止とある。文章の最後にご理解、ご協力をお願いします、となっていますが、罰則規定は何もありません」
「今、私が立っているのは道路に面した私有地です。公共の場所ではありません」
「そもそも警察の職務に喫煙を取り締まるというのがありますか?」
「喫煙取り締まりがいつから警察の仕事になったのですか?」
「警察学校でそう習いましたか?」
「まして逮捕など言って善良な市民を恫喝するのは如何なものでしょうか?」
私に諄々と説諭されて、二人のお巡りさんは、何も言えずに「‥‥‥」。


「麻薬かどうかを調べる試験薬が来るまで時間がありそうですから、一服させて貰います。逃げも隠れもしませんからご心配なく。一服終わったら、交番に入ります」


サイレンを鳴らした2台のパトカーで応援に駆けつけた4人のお巡りさんも加わって6人で私をぐるりと取り囲み、交番横はいささか物々しい雰囲気になりました。
「ところで、これが私の運転免許証です。私は任意同行でここにいるので逮捕された訳ではありませんよね。禁煙条例違反とやらで私を逮捕する前に、私の身元をまず警視庁に問い合わせて下さい」
実は、かなり昔のことですが、私は依頼されて警察学校で教鞭をとったことがあります。その記録は残っているはずです。


麻薬不法所持の現行犯逮捕で手柄を立てたと束の間の達成感を味わった2人の若いお巡りさん。余裕綽々で平然とパイプを喫っている私の態度を見て、「何だかまずい!」と察したようで、次第に私から目を逸らして沈黙するようになりました。
勇み立って応援に駆けつけた4人のお巡りさんにも、その微妙な雰囲気が伝わったようで、あまり関わりたくないなという気配が漂ってきました。


3台目のパトカーが、サイレンを鳴らして麻薬と大麻の試験薬を運んで来ました。
さあさあ、待ちかねた検査です。
外でゆっくりパイプを一服している間に、結果が出ました。


2人の早とちりお巡りさん、パトカーで応援に来たお巡りさんたち
「貴重なお時間を取らせ、誠に申し訳ありませんでした」と交番前で一同最敬礼でした。
私は「分かればいいんです」と鷹揚に頷きましたが、昼ごはんを食べ損なったお腹がグーグー鳴り出しました。


お巡りさんたちが職務熱心なのはとても素晴らしいことです。日本の治安はお巡りさんたちのこうしたひたむきの地道な努力で支えられています。頭が下がります。


ただ「喫煙で逮捕?」、これだけは頂けませんな。
警察学校は、若い諸君にきちんと教えなくてはいけません。

2022.04.21