禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムが大麻ビジネスを太らせる(前編)

今年11月10日付けの本コラムで、鈴木達也さんが「タバコをとるか?麻薬をとるか?」と題し、「タバコの広告規制が厳しい国ほど、若年層で麻薬使用の増加が顕著である」するチューリッヒ大学の社会学教授の統計による報告を紹介されていました。

私は、タバコと健康被害の因果関係を説明する“疫学研究”なるものを批判する際、「統計調査だけでは因果関係を立証したことにはならない」というの考えに立っています。単純に同じ論法で言うなら、タバコの広告規制と大麻使用者の増加の因果関係を統計調査だけで立証することもできません。しかし最近、暴力団の元構成員と話す中で、統計とは別の視点からタバコ規制と大麻使用者増加の関係を実感させられました。

その人物をA氏としておきましょう。今年の7月終わり、彼からこんな連絡が入りました。

「警察による大麻取締りが強化される。まもなく検挙者が続出するはずだ」

A氏によると、首都圏のタバコ自動販売機でもタスポが導入された7月、同じく彼の身近な関東のグループの大麻販売量が前月の2倍に跳ね上がったといいます。私はある新聞で、この情報を記事にしました。

そして8月以降、力士、テニス選手、AV女優、歌手、タレントのほか学生までもが逮捕される事件が次々と起こったことは、ご承知のとおりです。「あの記事の後、見事に大麻摘発が続いてるなあ」と、デスクも大喜びです。全国の年間逮捕者数はわかりませんが、新聞の地方紙には、「県内で昨年をすでに上回った」といった類の記事を複数見られます。全国紙・地方紙の記事を「大麻取締法違反 AND 逮捕」のキーワードで検索すると、2007年8月から2008年7月の1年間で759件の記事がヒットするのに対して、2008年8月から12月23日現在の4カ月たらずの記事数は1222件にものぼります。

12月、A氏に改めて話を聞いてみました。

──その後の大麻の販売量や販売単価はどうなっているか?

7月に首都圏でタスポが導入される前までの大麻は、安いものなら、自生モノが1gあたり500円、栽培モノが4000〜5000円だったが、需要が2倍になったら値段もそれぞれ2倍近くにまで上がった。そのせいか販売量はそれ以上伸びなかったが、減ってもいない。いちど2倍に伸びた販売量は、いまも横ばいのままだ。

──Aさんの“予言”どおり大麻での逮捕者が続出しているが、その影響はないのか。

ないね。一般人ばかりかミュージシャン、タレント、政治家相手のものも含めて販売ルートは健在。大麻を自宅栽培していた若者も摘発されているが、ヤクザ筋の大麻栽培に関わっている若者は、ほとんど逮捕されていない。7月に売上が伸びた際、ヤクザはネットで若者をひっかけて大麻栽培を委託し、オレの身近なグループでも都内だけで100カ所以上の“農場”を確保した。若者に月20万円ほど払って自宅栽培させる。万が一、彼らが摘発されても、組織本体にまで捜査の手は及ばない。簡単に“トカゲの尻尾切り”をできるようにするために、ネットで若者に声をかけているんだから。

──しかし逮捕者続出のニュースを、その若者たちも見ているはずでは?

もちろん、警察の摘発には見せしめ効果もある。それで怖気づいてケツをまくる(逃げ出す)若者はいる。しかし代わりはいくらでも見つけられるし、逃げた若者に対してヤクザは「お前が勝手に処分した大麻の代金」などと称してたとえば1000万円くらいの支払いを要求する。当然、若者はそんな多額のカネは払えない。だからヤクザは自分たちの息がかかった闇金融業者を彼らに紹介して、「賠償金」を支払わせる。実際に闇金を使う場合は、若者に「闇金に手だす覚悟まで持ってくれるならこれだけ返せばいいから」といった調子で、金額を100〜200万円に減額するが、しょせんは闇金の利息。すぐに返済額が膨らんで、1000万円の借金を抱えるのと大差ない状態になり、本人ばかりか家族にも追い込みがかかる。たとえ警察の見せしめによって大麻栽培から逃げ出す若者がいても、かえってヤクザは儲かり、その若者や家族は警察に摘発されるよりもっとひどい目にあう。

これだけ大麻摘発が続いていても、暴力団にはまったくこたえないどころか、別の金儲けのネタになってしまうようです。大麻ビジネスの根の深さに驚かされますが、そもそも、どうしてタスポの導入によって大麻の売上が2倍にまで伸びるのでしょうか。後編では、タバコ規制と大麻ビジネスの相関性について触れてみたいと思います。

フリーライター 藤倉善郎
2008/12/26