パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

パイプの煙  番外編 「年末高雄遠征記  『星影のワルツ』都市伝説とシガレット」

 師走も押し迫った12月12―16日、尖閣問題、台湾5大都市選挙関係の研究発表のため、台湾・高雄を訪れた。
チャイナ・エアラインが成田―高雄直行便を始めたのはありがたい。帰りが午後便で楽なのだ。

今年3度目の高雄は気温24度から28度と初夏の心地よさ。これだから12月の高雄はやめられない。

本業の研究発表はわれわれ日本人発表者はもちろん、関係者全員が日本語堪能で、通訳なしの日本語オンリーのやりとり。すごいね、台湾の日本研究者たちのレベルは。

いつもどおりの同行者、拓殖大学海外事情研究所・助教の丹羽文生氏はシガレットスモーカーだが、とりたててヘビースモーカーでもないのに、喫煙に固執する理由が今回判明した。

亡くなった彼の祖父・又平氏が、強烈な信念に基づくヘビースモーカーだったからだ。

97歳 現役歯科医スモーカーの至言

故人曰く「タバコは誰にも迷惑はかからない。副流煙が人に害を与えるなら、人のいないところで吸えばいい。たばこ税を上げるなら酒税をもっとあげろ。

同じ嗜好品なのに、税率のバランスがでたらめなことは財務省だって知っている」
「酒は人に迷惑をかける。酔っ払ったら喧嘩はするわ、ゲロは吐くわ、寝込んじゃうわでロクなことはない。

たばこは体に悪いというが、私はたばこを吸い続けてもなんともない」が口癖だったそうだ。

そういえば、文生氏も酒は飲めない。

実際又平氏は、毎日缶ピース1缶を吸い続けて97歳まで生き、生涯歯科医として現役だった。

寝たきり、認知症の高齢者の口腔ケアも続け、「まだまだ大丈夫だ」と励まし続けた。
「禁煙が健康増進みたいな話は、税金を取りたい浅はかな政府のニコチン愛好家へのイジメだ。私たち愛煙家は肺癌になるリスクを承知で高い税金を払っている。愛煙家をもっと大事にすべきだ」が持論だったという。

衣鉢を継いだ孫の文生氏も「意地でも喫煙はやめない」というわけだ。

さて、日本同様、禁煙の台湾だが、写真のように禁煙マークも鮮やかな高雄が、結構融通が利くことは9月にも紹介した。

今回、久しぶりに高雄港のフェリーに乗って、対岸の旗津に渡った。旗津にあったおしゃれな「リバーサイドカフェ」に立ち寄る。


禁煙なのだが、灰皿が置いてある。オーナーに聞くと「吸ってもいいよ」。
ということで、ご覧のように3年前、天国に逝った又平氏に報告するがごとく、カフェをすすりながら紫煙をくゆらせた丹羽氏であった。

愛河リバーサイドに加え、シーサイドでもある高雄港。

お馴染みのミスター高雄こと、蘇振源氏の案内でフェリーに乗ると、潮風が心地よい。3人で甲板に出て景色を眺める。

と、突如、横笛をもったおじさんが鮮やかな音色を奏で始めた。潮風とミックスして妙なる風情が増す。

お、よく聞けば、これは千昌夫の大ヒット曲「星影のワルツ」ではないか。

見事な横笛に、小生も敬意を表し、「冷たい心じゃないんーだよー、冷たい心じゃないんだよー、いまでーもぉ 好ぅきーだ、死ぬほーどーにー」と高らかに歌い上げ、即興ライブと相成る。唄い終えたら、同乗者からパチパチパチッと拍手。

計ったように、フェリーは港に着き、笛を懐にしまったおじさんは黙って一礼し、足早に旗津の街中に消えていった。

あっというまの真昼の出来事であった。

孫文とも縁があり、生きていれば100歳、明治生まれの気骨の人、又平氏が唄わせた「星影のワルツ」だったのだろうか。

またひとつ、高雄都市伝説を遺してしまった私。

千葉科学大薬学部教授 小枝義人