パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

諜報戦あるいはインテリジェンスについて

丹波作造

「放射能は健康に害があるかも知れないが、タバコに較べれば取るに足らない」は、主題を矮小化し副題で不確かな事実を心のうちに刷り込む卑怯な陳述法だといえば、このホームページのアクセスが増えそうである。マインドコントロールで言うところのローボール手法で、手相を見てあげましょうといって高価な護符を売りつけるのと択ぶ所はない。

一方で人の注意を惹きつけるためのオクシモロン(撞着表現)という手法がある。シェークスピアがその達人として知られるが、「君の事を思えばこそ邪険にする」、「長生きしたいから今のうちに無茶をしておく」、「押さなくても火が長持ちするタンパー」、等々。注意は喚起できても与える効果は間接的でメッセージ性には欠けるきらいがある。しかし、意外性による惑乱状態を利して陳述者に好都合なイメージを付与する前段として用いられることがあるので注意を要する。

パイプスモーキングの初心者に、煙は吸うだけでなく吹くことも必要なのだよなどと言い聞かせて上級者風を吹かせるのも、オクシモロン活用法の一種である。タンパーは単に押すだけではなく、押回しが肝要で左右どちらに回すかはボウルのホットスポットを掌で感じて経験により判断する、に至っては本人に件の技術を用いて達成した記録を言ってみろと要求すべきだろう。

会話が斯くのごとき諜報戦だとすれば、質問に「控えさせていただく」、「お預かりさせていただく」と逃げてばかりいる無芸の演者には、相方の突っ込みが甘いのも含めて、木戸銭返せと言いたくなる。もっとも、当人が自分が票を投じた政治家である場合は、興行主としての不明を恥じなければならないのかもしれないが。

翻って昨今のパイプスモーキングコンテストにおいては、人間の心理を突いた謀略が渦巻いているのは隠然たる事実である。筆者の経験でも、割り勘の計算(86÷17)あるいはタバコ輸入税の免れ方等の聞き捨てならない悪意に満ちた話題に我を忘れて、それまで順調だったタバコの火が消えて仕舞うことが多々ある。斯くなる上は、話題を振ってくる話者の底意を洞察し、それを足掛かりとして攻守逆転、相手を逆に陥れる”話題返し(カウンターインテリジェンス)”のテクニックを磨く必要性を痛感する。