パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

ちょっと遅い新春対談 「2018年 世界パイプスモーキング選手権大会を振り返って」

参加者
柘 恭三郎氏(株式会社 柘製作所代表取締役社長、日本パイプクラブ連盟常任理事、国際パイプクラブ委員会(CIPC)副会長)
内藤 慧氏(西東京煙管愛好者倶楽部所属・2018年第14回世界パイプスモーキング選手権大会チャンピオン)
植草 羊氏(日本パイプクラブ連盟常任理事・ジョンシルバーパイプクラブ所属・2018年第14回世界パイプスモーキング選手権大会レディースチャンピオン)

植草:本日、ここにお集りいただいた方々は、2018年おめでとうと言われてもおかしくない方々ばかりですが、まず、柘社長、国際パイプクラブ委員会の副会長に就任されました。おめでとうございます。

:ありがとうございます。いやー、参っちゃったよ。最初、今まで副会長に就任していた鈴木達也さんから話をもらったんだけど、僕は委員会に入ればいいと思ってたんだよね。蓋を開けたら、鈴木さんの役職の副会長まで引き継いでくれってことでさ。大会当日、選挙まで行われて、全18票のうちの15票を獲得して、無事に選任されました。重責を担うことになっちゃった。

植草:具体的にはどんなお仕事が待ってるんでしょうか?

:担当はアジアとアメリカ、オーストラリアかな。何しろ、パイプクラブの発展や、新しいクラブを作ることに協力する組織の副会長だからね。あとは、主な行事に出席することになっております。ただね、委員の中には、ウチ(柘製作所)の代理店の人もいたからさ、きっと、僕という個人じゃなく、柘製作所のパイプに投票してくれたんじゃないかなと思っています(笑)

内藤:ツゲの製品が世界に受け入れられているってことですよね。

植草:サブ・ツゲの名前はもはやワールドワイドですもんね。

:パイプ学会にも入ってるからさ、たぶん、これから、もっと学術的な研究も期待されてるんじゃないかな。

植草:それから、内藤さん、世界チャンピオンおめでとうございます!

:おめでとうございます!

内藤:ありがとうございます。でも、まだ実感がありません(笑)(世界大会は)日本でやっているのに、アウェイな感じで…。今まで全日本大会や関東大会に参加してましたけど、違った雰囲気があって…。海外の方がいらして、全然違う大会のように感じました。

:いつもの平均タイムはどのくらいなの?

内藤:バラつきがあるんです。2年前くらいは安定していて80分くらいを平均で出せていました。2018年は落ち込んでました(笑)30分で消えてしまったりしていたので、スランプに陥っていた時期ではありました。自己ベストは117分くらいですかね…。

植草:ってことは、本番で飛躍的にタイムを伸ばしたってことですよね?

内藤:そうなりますね。※世界大会優勝タイム 2時間27分5秒・147分5秒

:うわー!信じられない!

植草:最後に1人残るってどういう気分なんですか?

内藤:周りは見ないようにしてますね。吸うほうに集中してました。

植草:優勝を意識したのはどのへん?

内藤:最後の2人になった時ですかね。10人くらい残っている時は、全然優勝なんて思ってもみませんでした。でも、2人になった時は「これは、もしかしたら」と思い始めました。

:吸い切りだったの?それとも、まだたばこが残ってたの?

内藤:吸い切りでした。あの時の目標は「全て燃やすこと」だったんです。その目標に向けて、粛々と吸ったというか…。

植草:普段からキチンと練習するタイプ?

内藤:昔は練習していました。でも、どうしても長くなるし…。今は吸うことに情熱かけるよりも、作るほうが楽しいので、そちらに時間をかけています。(※現在はパイプ作家としても活動中)

:でもね、今まで、ずっとベテランの人が優勝してきたでしょう?こういう若い人がチャンピオンになるって初めてだから、我々としても、嬉しいよ。まず、若い人がパイプを吸ってるってのも嬉しいし、これから始める人にもいい刺激になる。

植草:私も、大会前までは、上位はいつものメンバーだろうな、と思っていたんですが、まさにスター誕生の瞬間でした。しかも、自己ベストで、素晴らしい結果だったと思います。

:途中で、まずいな、って思った瞬間ってあった?

内藤:ありましたね。やはり火を絞っているので、消えそうだなと感じた瞬間はありました。ただ、そういう変化にいち早く気づく事が出来たことも、今回の勝因の1つだと思います。

:そういう時ってどうやって切り抜けたの?タンパーワークとかドローとか、そういうテクニックってあるわけ?

内藤:そうですね、タンパーワークとドロー、その2つに尽きると思います。それが、危機を脱するということに繋がっているだけでなく、危機に陥りにくくする、ということにも寄与していると思います。

:難しいよね、火種を絞ると、ぱっと消えちゃうことがあるしね、かといって火種を絞らないと長く吸えないし…。

植草:その辺が競技の醍醐味と言えば、醍醐味ですもんね。

:羊さんはどうだったの?まずいなって瞬間はあったの?

植草:私は無かったんですよ(笑)というか、まさか優勝するとは思ってないし、常任理事の立場で勝つというのもねぇ…。おもてなしをする立場ですから。でも、今回は、パイプを作ってくれた人たち、パイプの箱を作ってくれた人たちの顔が浮かんで、行けるところまで行こう!って思ったんです。

:2人の話を聞くとさ、最初から勝とうと思ってなかったってことだよね。

内藤植草:思ってないですねー。

:ただ、淡々と吸って、って印象があるよね。

内藤:今回、分かったのは、灰になった時の味と、新しいたばこに火が着いた時の味が違うな、ってことです。アウェイな環境で、すごく集中していましたから、気づけたのかもしれません。リラックスしていて、でも、集中していて…。次、同じことが再現できるかというと、出来ない気がする(笑)

植草:でも、私はおこがましいですが、お互い、追われる立場になるわけでしょう?大会のたびに、内藤さんを倒そう、とか、植草を倒そうとか言う人が出てくるわけじゃないですか。そういうのって考えたこともなかったから…。

内藤:大丈夫。僕はすぐ倒されます(笑)でも、そういった目標にしていただけるのであれば、そういう役割になりたいな、とは思います。ただ、この結果にまだ実感が伴っていないので、本当にその役割を果たせるのかは心配です。がんばろうかな、という意気込みはありますけど(笑)

:ところで、大会パイプはどうだった?

内藤:今回の大会パイプは、割とシャンクの部分から太めに作ってあって、どっしりとしていい形だなと思ってます。重みがあるので、手を添える必要がありますね。(手を添えないで)咥えているだけだと顎に負担がかかるかな、とは若干思います。とはいえ、それを差し置いても、この錫のリングは非常にカッコいい。

:いわゆる「見立て」「やつす」ということなんだよね。「武士が町人に身をやつす」ってあるじゃない。例え、身をやつしても、品っていうのはにじみ出ちゃうんだよね。ウチのこのパイプはそういう意味でいうと、見立ての世界を表現したんだよね、竹の節を出してね。

植草:古美加工してあるんですよね。

:僕もさ、最初は重いかな、と思ったんだけどさ、その重さより、デザインだとかさ、付加価値がそういう部分にあるから、いいと思うんだよね。

植草:私は普段からボウルを持って吸う癖がありますから、気になりませんでしたね。ボウルの温度を確かめながら吸うって意味もありますし。

:今回はそういう温度のことは気にならなかった?

植草:これだけ肉厚に出来てますから、神経質にならなくてすみますよね。見た目の重厚さからも分かりますしね。

:このパイプが焦げるってことはほとんど無いと思うんだよね。

内藤:いい肉厚だと思います。世界大会で使ってみて、この肉厚でも、ほんのり温度が伝わってきて、火種のことは特に問題なく分かったので。非常にバランスがいいと思います。

植草:大会パイプとして、ファッショナブルで、大会だけではなく、バーなんかで吸っても、かっこいいと思います。

内藤:そうですね、今までとはちょっと違いますよね。

植草:私は常任理事という立場上、競技者の皆さんより先にこのパイプを見られるんです。柘製作所より、何パターンか候補のパイプを見せてもらって、理事会の投票により大会パイプが決まるんですが、この銀色の古美加工がダントツでした。

内藤:海外の方からの反響はどうだったんですか?

植草:私が聞いたのは「どう吸っても、吸い切りしやすいね」って。あと、感想を聞くまでもなく、連盟が販売する分があっと言う間に売り切れました。

:また、最初から作るのは大変なんだよ。材料から揃えなきゃいけないし。今回は300本以上作ったわけだけど、昔ほど材料が豊富なわけじゃない。ビリヤードを作るには「エボーション」という、カットされているブライヤーを買わなきゃいけない。サプライヤーも、同じサイズのものを切り出すのは大変。

内藤:木目も、クロスグレインのものを使ってます。ストレートに出るのではなく、クロスのほうに揃えてるんですよね。商品化はしないんですか?

:それは出来ないんじゃないかな。そっちのトロフィーのパイプは、ウチの福田が作ったイケバナがのってるんだよ。発案者はウチの専務(三井氏)。「もらって飾るトロフィーより、使えるトロフィーにしたかった」ということだったんだよね。

植草:私個人的には、「メダルでいいでしょ。そのほうがスーツケースに入るし」って言ってたんです(笑)理事会的には、上位は当然海外勢だと思ってましたから(笑)でも、せっかく日本まで来て、勝って、それでメダルだけじゃつまらないだろう、って話になって…。そしたら、専務の三井さんが「なら、やっちゃおうよ!」って言ってくださって…。レディースチャンピオンの商品も日本らしい「蒔絵」シリーズを、ということで決まりました。

:今回の大会は、本当にすごかったよね。今までは、ずっと海外勢が優勝してたからね。日本が個人の優勝、レディースの優勝、団体優勝まで持って来ちゃうんだから、感慨深いよね。

内藤:おもてなしするどころか、完膚なきまでに…(笑)

:若きチャンピオンから同世代に向けて、なにか一言欲しいな。

内藤:そうですね、世代は関係なくですが、パイプは吸って美味しいですし、鑑賞して楽しむという側面もあります。また、歴史もあり、調べていくと色々分かって、すごく奥深い。ぜひ、触れてみるのがいいかと思います。

:僕が若い頃考えていたことと同じだな!ある日、パイプって美しいな、ってのが分かったんだよね。

内藤:若い人になればなるほど、パイプに触れること、パイプを吸っている人に出会う機会が減ってくると思うんですよね。そういったことに触れようとした時、一歩足を踏み出してみる、自分が接している世代とは違う世代の人とつきあうだとか、別のコミュニティの人とつきあうだとか、そういうことを大切にして、と思うんですよね。

:そうそう!本当にそうだよ。僕が色んな人と知り合えたのも、パイプのおかげだよ。普段、話出来ない人とも知り合いになってね。僕の人生において、すごく大きい。

植草:そうですね。これからは、私も、常任理事として、下の世代を仲間に引き入れたいですね。そういう意味で内藤さんが優勝してくださって、パイプスモーキングのハードルが下がったのではないかと思うんです。失礼かもしれないけど…。

内藤:そうですね。ぱっと出てきて、またぱっと出てきた人に負けると、実は誰にでもチャンスがあるって思いますよね(笑)

:まだまだ言っちゃいけないよ、チャンピオンになったばっかりなのに(笑)

植草:あと4年間はタイトルホルダーなわけですから、後世に伝わるようにがんばって行きたいですね。
さて、お時間になりましたので、今日は皆さん、ありがとうございました。