パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

『50にして煙を知る』第14回
春はまだか。梅と鮟鱇鍋の水戸遠征記

春が待ち遠しい―。

若い時は四季なんか、あまり気にもしていなかったが、齢50半ばとなれば、「なるほど。季節の変わり目には、体がついていかず苦労する」と痛感する。

寒い、暑いがどれほど体に堪えるかが、わかるようになった。

そんな早春の行事に観梅がある。梅を愛でて、しばらくして桜を眺めるのが、日本の春だ。

名物の水戸・偕楽園の梅を楽しもうと、日本パイプスモーカーズクラブ(JPSC)の梶浦代表世話人を筆頭に、仲間8名が茨城県まで足を伸ばしたのは、大寒波が関東地方を一週間にわたって襲った直後の2月最終日。水戸JCブライヤーズクラブの呼びかけで、大洗海岸で水揚げされるアンコウ鍋をつつくという楽しい集いである。

まずは梅だ。梶浦氏に同行したが、特急「スーパーひたち」はこの時期、週末は偕楽園に臨時停車してくれる。降りたら、いきなり着物姿のお嬢さんが歓待してくれた。「水戸の梅大使」10人のお嬢さんが着物姿で会場のあちこちで笑顔を振りまいてくれるのだ。

偕楽園には3000本の梅が咲いているのだが、このところ天気が悪かったが、この日は土曜日で久々の晴れとあって、すさまじい人の波。

「うーん、梅の花は小田原の方が大きくてパアっとした感じだなあ」と梶浦さんの感想を聞きながら、われわれは人波を避けてパイプに火をつける。「禁煙」とも書いてもないからかまわないだろう。

パイプ片手に着物姿の「大使」のお嬢さんとわれわれ、記念撮影とあいなったが、お嬢さん方からは「あらあ、パイプなんて本当に素敵ですねえ」とのお褒めの言葉に、すっかりいい気分になって、アンコウ鍋の店に向かったのである。

なんでも同クラブの2月例会は毎年、アンコウ鍋を堪能した後、ロングスモーキングを始めるという素晴らしい伝統があるらしい。

アンコウ鍋は東京組はほとんどの人が食べるのが初めて。「花より団子」ならぬ「梅よりアンコウ」だ。うまい。底冷えのする水戸では、こうした鍋料理はほんとうに体が温まって元気になる。

元気を取り戻した後、始まった水戸JCブライヤーズクラブのロングスモーキング・コンテストは1グラムタバコ。正式大会は3グラム、JPSCは毎月2グラムのタバコで競っているので、1グラムという少量にはメンバー全員が戸惑った。

パイプに詰めたが、少なくて、普通のパイプでは、ボウルの底のほうにタバコがへばりついているような頼りない感じだ。

「なんか、点火したら、すぐ燃え尽きちゃうんじゃないかい?」と東京遠征組からの声に、水戸メンバーからは「なあに、そんな気にするようなことでもないですよ」とすました答えが返ってくる。

わが方では森谷周行氏が少量を想定して、小ぶりのパイプを持参しているのはさすが。

なんとなく「始めますよ」の声で着火。初体験の1グラムはなにやら、最近の内閣のように、安定期に入る前にグラグラして、なかなか巡航速度に入れないもどかしさと不安がいっぱい。

私も慎重に吹かして吸いを繰り返したが、15分にちょっと足りずにあえなくリタイア。

さすがに森谷氏は豪腕ぶりを発揮して、2位に入ったが、1グラムではトップでも30分台の短さだ。

「ま、スモーキングはあくまでゲームですからね」という声の中、和気あいあいでお開きとなったが、「全国に30以上あるスモーキングクラブには、それぞれに根付いた独特のルールややり方があるもんだな」と実感させられた。

百聞は一見にしかず、とはよく言ったものである。

千葉科学大薬学部教授 小枝義人