パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

どっこいマッチは生きている

平井 修一

パイプ煙草を楽しんでいるが、ライターで点火すると火傷しそうなので、1ヶ月前からマッチを利用している。今時マッチを利用する人は少ないからスーパーでも探すのに苦労したとカミサンが言っていた。

マッチは100円ライターが普及するまでの100年間、点火の必需品として発展した。

生産量は1973(昭和48)年あたりが全盛で、総生産量が戦後最大の80万マッチトン(=註)になる。1975 (昭和50)年にはディスポーザブルライター、いわゆる「100円ライター」が発売され、以後は長期低落傾向をたどっている。

2004(平成16)年は3万348マッチトンだから、わずか3.8%にまで激減した勘定だ。栄枯盛衰、諸行無常、盛者必滅の理(ことわり)か。

パイプ党にとってはマッチは必需品で、パイプ用のライターはあるが、

小生のような「ガスの切れ目が縁の切れ目」的な人にはマッチで十分だし、第一ロマンチックである。折角だからとマッチの歴史を調べたら、このサイトに出会った。

<バーチャルミュージアム「マッチの世界」へようこそ!>

ここは、社団法人 日本燐寸工業会および協同組合 日本マッチラテラルが運営する「マッチ」のミュージアムです。マッチに関する様々な情報をご覧いただけます>

http://www.match.or.jp/index.html

メーカーの日本燐寸工業会は会員数22、ラベル印刷や関連業の日本マッチラテラルは組合員数43。メーカーにしても売上げに占めるマッチ製造は今や3割にも満たないようである。

同サイトから興味深い点を引用する。

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1805(文化2)年 フランスのJ.シャンセルが即席発火箱を発明。

1839(天保10)年 高松藩士、久米通賢(くめつうけん)栄左衛門がドンドロ附木、吹弾子(雷汞(らいこう)マッチ)を発明。史実としてはわが国最初の国産マッチの発明。

1848(嘉永元)年 兵庫県の蘭学者、川本幸民(かわもと こうみん)が燐を用いて黄りんマッチを試作。

(「奇しくもこの年、デンマークのH.C.アンデルセンの童話『マッチ売りの少女』が出版」というから、ヨーロッパでは相当普及していたのだろう)

1873(明治6)年 岩手県盛岡藩で士族授産施策のマッチ製造所「葆光社(ほうこうしゃ)」が設立。わが国最初のマッチ工場として明治18年まで操業。

1874(明治7)年 函館懲役場で囚人であった玉林治右衛門がマッチの製造を試み、燐を製出。のちにマッチ製造を開始。

1875(明治7)清水 誠が1875年にマッチの生産を始める。

1884(明治17)年 東京、岩谷商会が口付紙巻たばこ「天狗印」を発売。

1894(明治27)年8月、日清戦争、勃発。9月、マッチ業者の全国組織、日本燐寸議会が発足。

(兵隊さんは天狗煙草をマッチで点火していたろう)

1905(明治38)年9月、日露戦争、終結。ポーツマス講和条約、調印。この年、輸出高が1000万円を突破し、1036万円に達する。

1912(大正元)年 マッチ総生産量106万マッチトン、内輸出量が90万マッチトンとなり、生産量の85%が輸出される。

1924(大正13)年この頃から日本独自の発明品、徳用型家庭マッチが実用化され、販売も始まる。

(明治・大正時代は日本・スウェーデン・アメリカが世界の3大マッチ生産国であった)

1935(昭和10)年 広告マッチは盛況を示し、月の消費では東京1300万個、大阪700万個に達する。

1945(昭和20)年8月、大東亜戦争終結。国民は耐乏生活へ)

1948(昭和23)年9月 マッチ配給統制が撤廃。自由販売が復活(標準販売価格、並型1個、7月1円50銭、9月2円10銭)。

(戦後の物資欠乏のせいか、着火率の悪いマッチが横行したようで、この年の9月15日、不良マッチ退治の主婦大会を機に主婦連合会が結成された。マッチが主婦に火をつけた?)

1960(昭和35)年 広告マッチの需要が伸び、生産全体の39%に達する。

(イケイケドンドンの高度経済成長がスタート)

1973(昭和48)年 この年、総生産量が戦後最大の80万マッチトンとなる。内輸出量は1万8000マッチトン。

1984(昭和59)年 軸木の太さが2.2ミリ角に改正。

(こんなことまで規則があるなんて、いやはや)

1986(昭和61)年 マッチ製造業は政府の実施した事業転換対策臨時措置法の業種指定を受ける。

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斜陽産業としてお墨付きを得たということだ。飲み屋などでは広告入りマッチをただで配っていたが、禁煙化が進んでいるのでそれもやがてはお仕舞いになるだろう。滅び行くものは美しく、マッチのコレクターも少なくないようだ。

ちなみにギネスブック公認、世界一のマッチラベル収集家は吉澤貞一氏(故人)という。

註:マッチトンとはマッチの計量単位。1マッチトンは並型マッチ(56×36×17mm)で600ダース=1トン。