パイプの愉しみ方

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パイプの煙 番外編  「台湾煙事情」

千葉科学大薬学部教授 小枝義人

少々旧聞に属する話題になるが、9月に恒例の台湾・高雄遠征に行った。
公の場、飲食店でも原則禁煙となった台湾だから、通りでタバコを吸う姿は見かけなくなったが、今回は高雄から郊外に足を伸ばしたら、結構、愛煙家たちがスパスパやっている姿を見かけた。

「禁煙です、となっているが、では喫煙スペースをきちんともうけてあるかといえば、そうでもないから、道や建物の隅で吸うしかないんですよね」と教えてくれたのは、高雄在住の日本人だった。

30代後半の彼は、もう10数年高雄に住んでおり、奥様も台湾人を娶り、お母さんも高雄に呼び寄せて、マンションも買い、悠々自適に仕事をしていいる。

ひょんなことから知り合ったが、あまり日本語がうまくない。てっきり台湾の人だと思っていたら、日本人。

大学卒業後、入社した会社で台湾での現地法人で働く辞令が出て、そのままいるから、まったくできなかった北京語も台湾語もネイティブになってしまい、東京本社にたまに出張する以外、日本語を使うことはないからだ。

しばらく私と話しているうちに、だんだん思い出してきたらしく、舌が滑らかになってきた。

彼に連れられて中華料理屋に行くと、ここも原則禁煙だが、テーブルの上に灰皿はないが、カウンターにはたくさん置いてある。「タバコが吸えるのか」と聞くと「吸えますよ」と、彼はシガレットを取り出して吸い始めた。

「客が吸いたいのに、だめだといえば、他の店に行ってしまう。 台湾も日本と同じように不況です。わざわざ客を減らすような馬鹿な真似はしませんよ」とニヤリ。

大陸とも商売をやっているから、中南海というタバコ、これは大陸製だろうが、「吸うか」と勧められた。

なるほどなあ、「上に政策あれば下に対策あり」か。

高雄に住むハイソな人々は美濃という地に別荘を持っている。箱根か熱海のようなものだが、車なら数十分の距離だ。また美濃は客家が住んでいる場所としても有名だ。

ここの別荘の持ち主に招待されて遊びに行ったら、その豪華さに驚いた。

庭園には屋根つきのガーデンバーベキューが楽しめるテーブルで、ロータリークラブの仲間が楽しくパーティをやっていて、仲間に入れてもらった。

まるで中国皇帝の宮殿を小さくした感じ。庭園の中央にあるのは、丸テーブルに椅子が4つ。それをやはりきれいな屋根で覆ってあるから、そこに座れば、直射日光を避け、優雅にティータイムを楽しむことができるし、読書も楽しむことができる。

「いいなあ、こんな生活」。オーナーは鉄鋼業で成功した70歳、吉雄という名前は日本風だが、敗戦時5歳だから、日本語が自由に話せるわけではない。

どういうわけか、私は彼に気に入られ、話しこんだ。

「若い頃から夜を日に継いで働いた。おかけで、ここまで来れた」と胸を張る姿は、戦後日本人のサクセスストーリーを聞く想いだった。

おもむろにポケットから取り出したものはタバコ。「どうだい」と勧められたので、2人で仲良く吸った。シガレットは吸ったことのない私だが、この老人に勧められたら断れないなあ。楽しく吸いながら、ウイスキーをご馳走になった。

9月でも36度なんて猛暑が衰えなかった日本に比べ、台湾は最高気温が28度から32度。台湾は涼しかったぜ。