大会記

大会参加記

第35回全日本パイプスモーキング選手権大会が開催

日本パイプクラブ連盟(PCJ)主催の第35回全日本パイプスモーキング選手権大会が平成20年10月12日、東京・浅草の浅草ビューホテルで盛大に開催された。今回の大会は5年に1回、東京で開催する記念大会という位置付けであり、全国から連盟傘下の27パイプクラブから参加、クラブに所属しないフリー参加者も含めて222名の選手が登録してロングスモーキングの技を競った。

記念大会とあって会場の飛翔の間の隣では、パイプショウも並行して開催し、海外も含めた著名なパイプ作家やパイプ関係の専門店、小売店がずらりと軒を並べて、自慢のパイプやハンドメイドパイプ、タバコ葉などをたくさん並べて展示即売。当日の競技に参加する選手のみならず、一般のパイプ喫煙愛好家も多数詰めかけ、大いに賑わった。

選手権大会の前日夕、PCJの秋季理事会が開催され、選手権大会で使用するタバコ「シルクロード」の検量と使用タンパーの測定を行った。検量では大会用に連盟事務局が事前に用意した250袋の中から10袋を無作為抽出し、3グラムずつきちんとビニール袋に入っているかどうかを精密秤で計測した。その結果、すべてがきっちりと3±0.1グラム以内であることから、検量は問題なく合格となった。一方、タンパー計測では、直径15_bは検査した全てのタンパーで問題なかったが、長さが国際ルールで定められた100_bにいずれも10_b足りないことが判明した。タンパーを合格にするか不合格にするかは、本大会会長で国際パイプクラブ委員会(CIPC)副会長でもある鈴木達也の裁量に委ねられたが、「口径と違って長さは競技に影響するおそれは少ない」との裁断で、合格となった。但し、タンパーを製作したメーカーには、今後こうしたことがないように注意を促すことになった。

さて、選手権大会当日の12日、地方から上京して前日からホテルに宿泊した方も含めて朝から続々と選手が受付で登録を済ませた。今回は、連盟事務局が事前の広報活動に力を入れた結果、大手新聞社や地元ケーブルテレビ、タバコ業界紙、フリージャーナリストが取材に訪れた。個人の趣味趣向である喫煙に対して、科学的根拠が乏しい理不尽で感情的な規制が幅を利かすようになった現在、パイプの愛煙家団体として、報道機関に対する広報啓蒙活動を一層強める必要がある。

選手権大会の会場は、浅草ビューホテルで最大の宴会場だが、25卓の大きな丸テーブルとこれを囲む椅子が、奥までぎっしりと並べられて壮観だった。競技では1卓に計測員1名と選手10名が着席するが、競技会終了後のパーティーには、参加選手に加えて来賓や招待者、パイプショウ関係者など60名以上が参加するためだ。


ロビーでは、1974年の日本パイプクラブ連盟(PCJ)設立以来の全日本選手権大会、PCJ主催の2回の世界大会の様子を撮った貴重な写真がパネルにして展示。またパイプを支給するようになった第4回大会以降の使用パイプを全て展示した。第1回大会から全ての大会に選手として参加している六本木ローデシアンパイプクラブの創立者、高橋秀男氏の御好意によるもので、多くのパイプ愛好家たちが興味深く、懐かしそうに見入っていた。

受付を済ませた選手たちがパイプショウで買い物したり、ロビーで1年ぶりの久闊を叙したり、談笑しているうちに、午前11時30分に飛翔の間の扉が開いて開場、選手が続々と入室し、自らの席を確かめる。

正午過ぎにいよいよ大会が開幕。今回の司会は5年ぶりにPCJ常任理事のベテラン、大森節夫氏が担当。深みのあるバリトンがよく通る。

まず、今大会会長の鈴木達也PCJ会長が挨拶。1週間前の10月5日にドイツで開催した欧州パイプスモーキング選手権大会で、世界記録保持者のイタリアのジアンフランコ・ルスカーラ (Gianfranco Russcalla)氏が自己記録を更新して世界新記録3時間33分6秒を樹立したことを披露。「今大会でこの記録を目指して、さらに越えて新記録を打ち立てよう」と激励した。さらにパイプ等の喫煙具関係の企業が地場産業となっている台東区浅草での開催の意義を強調。「タバコや喫煙者を白眼視している隣の千代田区などのおかしな自治体とは違って、台東区は喫煙文化に理解がある。タバコはなるべく台東区で買いましょう」と呼びかけて、場内から賛同の拍手が沸き起こった。

来賓の一番手として台東区長の吉住弘氏が祝辞を述べ、「台東区は喫煙関連産業が大切な地場産業であり、タバコ税収が35億円あり、区の貴重な税収になっている」などと紹介。喫煙者と非喫煙者の折り合いをつけるために「区の政策として分煙を進めており、JT様の協力で、浅草など国際的な観光地の至る所に喫煙ポイントを設けて好評だ。喫煙マナーも向上させましょう」などと述べて、盛大な拍手を浴びた。

いよいよ競技開始だ。5分間のタバコ詰めが終わると、競技は恒例により、カウントダウンと鐘の音で着火開始。開始して10分間は空調を止めたので、会場は紫煙で霞がかかったようになった。着火時間の1分間が過ぎて間もなく「あ、消えた」という着火ミスの落胆の声があちこちで続いたところはいつも通りの大会風景だが、今回は1分台で消えた着火ミスの選手が11名と普段よりも多かったようだ。

消えた選手は挙手をして計測員に知らせ、記録カードに署名して一礼して席を立ち、粛々と場外へ。本来の実力を発揮できずに早々と消えてしまって悔し顔の選手たちに感想を聞くと「タバコの葉が予想外に湿っていた」「マッチが折れて不良品だった」「パイプのボウルが大き過ぎた」などと澄まして語り、自らの技量不足を素直に認める声は少なかった。ロングスモーキング競技は日頃の実力だけでなく、当日の運の要素も大きい。勝負にこだわり過ぎず、こうしてあっけらかんと軽く責任転嫁して面白おかしく語れるところが、高尚な紳士淑女が集まったパイプ大会ならではの良さだろう。

全日本大会には奇抜な衣裳やおそろいの派手な格好で注目を集めるおなじみの人気選手やクラブがつきものだが、今回は全体に地味で、目立ったのは和服に坊主頭の岡山パイプクラブの香山雅美氏位。「色々と関係各方面をお騒がせしたので、自戒を込めて頭を丸めて参りました」と神妙なご挨拶だった。

60分も過ぎると、火の消えた選手が多くなり、ロビーは談笑や自慢話、馬鹿話などで騒がしくなる。全国にまたがる長年の顔見知りのパイプ仲間が一年に一度集うお祭りだから、積もる話も多いだろう。

今回大会で使用したシルクロードは、なぜかロングスモーキングにはやや厳しかったようで、80分を超すと名うてのベテラン選手が次々に席を立って退場していく。90分を超えると会場に残っている選手は13名とまばらになってきた。100分を超えて残ったのは6名、いずれも強豪ぞろいだ。誰もが優勝を狙っている。

105分を過ぎると残った選手は3名に絞られた。

まず、全日本大会個人優勝8回という偉大な記録を持つ徳島パイプクラブの木内成一名人、全国優勝経験のある強豪、岡山パイプクラブの西崎喬郎氏、パシフィックパイプスモーカーズクラブの矢野初恵さんの3名に絞られた。

衆目の一致する優勝候補は木内成一名人。今年8月31日に開催した中四国大会で130分の好記録で優勝したばかりだ。85歳という御高齢ながら矍鑠とした様子は「パイプ党は健康で長生きする」という我々パイプ愛好家の経験則を自ら立証しておられる。精神を集中して無念無想といった風情で、パイプから細い紫煙を立ち昇らせながら姿には、枯淡の味わいが感じられる。誰が付けたか知らぬが、「名人」の尊称が、これほどふさわしい方はいない。

西崎喬郎氏も毎回、安定した成績を誇るベテラン。3年前の山形大会で優勝し、チェコ・マリエンスケラーズニェでの世界選手権大会にPCJから日本代表選手として派遣された。病気を克服してから実力が一段と増してきた。今回はご子息を引き連れて参加。パイプをじっと眺め、ボウルを覗き込んでタンパーを捏ねまわすような独特の火種調節が持ち味だ。

矢野初恵さんはレディース部門では、定評のある実力者。ご主人の浩氏とのアベック参加だが、ご主人の方は60分余りで火が消えてしまい、妻の応援に専念。

この中でまず消えたのが、矢野選手。見事に個人戦3位。当然、レディース優勝。今回大会には21名の婦人選手が参加したが、106分14秒という記録はレディース部門の歴代日本2位の快記録。実力を出し切って嬉しそうだ。

110分台を超えて二強の闘いがいつまで続くかと思われたが、先に消えたのが、西崎選手。113分25秒。優勝を逃してやや無念と言った表情で、パイプのボウルの底をじっと眺めている。いくら眺めても火が再び着かないのが悲しい。銀メダルおめでとうございます。

木内名人が独走している。120分を超えてもパイプを吸う姿は微動だにしない。今回は、130分か、140分か、それとも150分超えか?

記録への期待が高まる。

場内の全員の視線が木内名人のパイプにじっと注がれる。

煙が細くなったか……

「消えました」。

木内名人が小さな声で宣言して、競技会は全て終了した。126分43秒。パイプ検査も合格。盛大な拍手が沸き起こる。

木内名人としてはいささか物足りない記録かもしれないが、これで個人優勝9回。不滅の金字塔を打ちたてた。

「優勝、おめでとうございます」パイプ仲間全員から祝福を浴びて、満面の笑みがこぼれた。

パーティーには290名近くが参加して場内は超満員。料理は中華。各テーブルで選手権大会を振り返っての話題が盛り上がって賑やかだ。そこへサンバの踊り子数十人が半裸姿で音楽に合わせて踊りながら入場してきた。地元浅草のサンバチームのお嬢さん方である。殿方を挑発する半裸の際どいサンバの衣裳、はちきれるような健康な女体の誇示と大胆な踊り、大音量のブラジルの喧騒音楽で場内は異様に盛り上がった。アトラクションとして大成功。男性陣の目を釘付けにしたのですから。サンバチームは豪快に景気良く30分近く踊りまくって退場。表彰式に移った。今回は五輪方式で表彰台を作って、1位から3位まで表彰した。

クラブ参加選手上位3名の記録を合計した団体戦の優勝は岡山パイプクラブ。西崎、藤原秀樹、香山の強豪3選手が頑張って298分10秒とまずまずの成績を残した。大会前に何度も練習会を開催したというチームワークの勝利だろう。2位がジョンシルバーパイプクラブ、3位がすみだ川パイプクラブ。続いて個人戦、レディース戦の表彰。今回は参加各クラブより多くの賞品が寄贈され、飛び賞にとどまらず参加選手全員に賞品が行き渡った豪華な大会だった。

今回の東京大会は、六本木ローデシアンパイプクラブが開催準備全般の事務局を担当し、台東区を活動の本拠地とするジョンシルバーパイプクラブが協力、日本たばこ産業株式会社が後援した。

六本木ローデシアンパイプクラブの皆様、数ヶ月間にわたる準備作業、まことにお疲れ様でした。感謝申し上げます。応援で準備を手伝ってくれた岡山パイプクラブ東京支部の若手メンバーも、ありがとう。

ジョンシルバーパイプクラブの皆様並びにご後援のJT様、ご協賛下さった喫煙具関係、タバコ関係の企業並びに団体の皆様、ありがとうございました。 心より御礼申しあげます。


註:35回全日本大会の個人記録、団体記録等は、会員限定ページに掲載します。

日本パイプクラブ連盟事務局