ヒトはなぜたばこを吸うのか ―参考図書紹介

ヒトはなぜたばこを吸うのか ―参考図書紹介

ヒトはなぜたばこを吸うのか ―参考図書紹介

 「ヒトはなぜたばこを吸うのか」を考えることは、人間を考えることに等しく、あるいは人間の研究なくしては答えることができない困難な問いである。
(財)たばこ総合研究センター(TASC)をはじめ、少なからずの機関・研究者によって、さまざまな側面に光があてられてきた。いまだ十分な成果が得られたとはいいがたい。
しかしながら、いくつかの有用な見方は得られていることから、それらの掲載された書籍を紹介することにしょう。

1.世界嗜好品百科
松浦いね・たばこ総合研究センター(編)山愛書院、2004年

たばこ総合研究センターが文化人類学者からのヒアリングや諸資料をとりまとめた「諸民族の嗜好品の嗜好傾向」という研究報告の集大成。世界には、酒・たばこ・コーヒー・茶のほかにも、カヴァやカートなどさまざまな嗜好品があり、諸民族に愛されていることがわかる。

2.嗜好品の文化人類学
高田公理・栗田靖之・CDI(編)、講談社、2004年

人文科学の大学教授などによる「嗜好品文化研究会」の平成14年度の活動報告。常識では考えられないような意外なものも嗜好品になる社会があると報告した。
まず第一に、たばこは嗜好品だという点を考えることが重要である。好きだから吸うというのである。つまり、好きな人がたばこを吸い、そうでない人は吸わない。嗜好品には、人間が生きていくうえで必要な栄養分があるわけではなく、そういう意味ですべての人が摂取するものではなく、その点だけから見ると不要ですらある。それなのに、多くの人に愛されている。酒・たばこ・コーヒー・茶は四大嗜好品と呼ばれる。そして、嗜好品にはそれぞれ精神や神経に作用する物質が含まれている。酒にはアルコール、たばこにはニコチン、コーヒーや茶にはカフェインというように。

3.たばこを考える1
たばこ総合研究センター(編)、平凡社、1987年

学際的立場から総合的にたばこを研究したもの。13名の執筆者による12編の論文と3編の解説。

4.ヒトはなぜたばこをすうのか
A.ウェテラー、J.フォン・トロシュケ、新曜社、1987年

喫煙開始に関する「喫煙の動機づけ」の研究を展望し、喫煙歴の研究なども展望。

5.喫煙の科学---人間はなぜタバコを吸うのか
千葉康則、婦人生活社、1979年

人間社会は約束や契約で固定し変動しないようにできているからシステム・スターティクス(SS)であるが、人間の個人や集団はたえず変動しているシステム・ダイナミックス(SD)である。だから人間は、SD解放とSS適応が必要になる。このために、喫煙が役立つ。

6.ストレス対処行動としての喫煙の作用
小野高弘、稗田忠治、鵜沢悦子、楡木祐、『TASC REPORT』第4号、1999年

ストレス対処行動面から喫煙の効用をとらえ、調査結果にもとづき効用を分類した。これによれば、第一に有効な生理的効果のある手段をとることによって、自分に生じたストレスを解消することが挙げられ、その中にはリラックスと覚醒の二つがある。第二に喫煙により環境を変え、ストレスの原因になるものを自分にふりかからないようにしたり、弱めたりしてストレス解消をすることが挙げられ、その中には自己との関わりのもの、他人との関わりのもの、社会との関わりのものの三つがある。

7.タバコ、愛煙・嫌煙
宮城音弥、講談社、1983年

心理学の各分野での研究結果から、喫煙についてまとめた。
第二に、社会学や心理学の方面から検討したさまざまな書物がある。それらは、多数の要因が喫煙に影響しているという考え方を背景にして、ヒトの喫煙行動を一般化して説明することはできないのか、多くの学者がさまざまな理論モデルを提案している。例えば、喫煙開始について、喫煙継続について、禁煙についてなど、個々の現象についてのモデルは提案されているのだが、喫煙行動全般を包括的に説明するものにはなっていない。つまり、いくつかの視点から必要な変数が選択されており、それぞれに有意義なものであるが、もともと包括的ではないがゆえの限界もある。千葉康則のSS-SD理論や、小野らのストレス対処行動のひとつという説明は、人間の適応として説明していると考えられる。

8.『談』別冊「shikohin world たばこ」
アルシーブ社、2002年

雑誌『談』の別冊らしく人文科学・自然科学・社会科学の各分野から、たばこを学際的に研究したもの。柳田知司氏へのインタビュー「たばこの精神薬理作用」が示唆に富む。 第三に、生理学や薬理学の方面から見て、喫煙の効用を主としてニコチンの薬理作用から説明する書物がある。これは、ニコチンの薬理作用を求めて、人間が喫煙するという考え方である。そもそも、ニコチンは興奮時には鎮静効果を、鎮静時には覚醒効果をもたらすという。また、アルコールなど他の薬物が強い依存性をもつのにくらべて、ニコチンの依存性はきわめて弱いという。

9.ストレスと快楽
D.M.ウォーバートン・N.シャーウッド(編)、金剛出版、1999年

ウォーバートン教授がARISEという快楽に関する研究会の研究成果のまとめとして出版したもの。快楽は人間誕生以来の重要な課題でありなが、十分に研究がされたとはいえない。そこで、学際的にさまざまな角度からの論文を集めた。快楽は「生活の質(Quality of Life)」を高めるという。 第四に、喫煙を「快楽(Pleasure)」の視点からとらえようとする考え方がある。肯定的な観点から検討したユニークなものである。人間が快楽をもとめて喫煙しているという。「快楽」よりも「愉しみ」と言い換えた方が理解しやすいかもしれない。

10.コミュニケーションと嗜好品---たばこを中心として
青木芳夫、『TASC REPORT』第5号、2000年

コミュニケーションのきっかけ、コミュニケーションのリズムの調節、ノンバーバル・コミュニケーションの手段、自分の思考の補助、などの点で、喫煙が役立つという。 第五に、喫煙は人間の文化だということを掘り下げた書物がある。喫煙は人間の長い歴史の中で培われてきたものであり、芸術文化などに大きな影響を与えているという。また、社会生活の中で、喫煙はコミュニケーションに役立っているという主張も、この中に含めておこう。

11.たばこ屋さんが書いたたばこの本
村上征一、三水社、1989年

喫煙の理由、たばこのメリットなどのほか、たばこの原・材料や製造方法、たばこの味の嗜好の変化などにも言及している。

12.煙草おもしろ意外史
日本嗜好品アカデミー(編)、文芸春秋、2002年

長い歴史をもつ喫煙のエピソードを交えて、考究したもの。たばこは、神との出会い、他者との出会い、自己との出会いに発展した「大人の嗜好品」であり、喫煙行為は文化であるとし、たばこのもつ問題点にも言及している。 最後に、喫煙の効用だけでなく、総合的に書かれたものを下記に掲げておいた。 たばこに関する書籍は数多く存在する。上記に挙げた書籍は、手近にあり、わかりやすく、公立図書館などで容易に閲覧できるものに限定したので、ほんの一部にすぎない。関心がおありの向きには一読をおすすめしたい。上記の書籍が読者の皆様のお役に立てば幸いである。

13.2009年に出た「たばこの本」
(財)たばこ総合研究センター 大久保雅夫

1. はじめに
  2009年はたばこ関係の書籍が豊作で、忘れられない年となった。・・・

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